「ドラモンド氏とドザエモン・・・お見事!」スパイの妻 劇場版 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
ドラモンド氏とドザエモン・・・お見事!
明らかに関東軍防疫給水部本部(731部隊)についての国家機密について描かれている本作。森村誠一氏の「悪魔の飽食」も夢中になって読んだのですが、後に関係のない写真が使われたとして信憑性も問題になった。ソ連が侵攻してきたために建物の多くは爆破され、資料も焼き払われてしまい、関係者の証言を積み重ねた結果による内容だ。今でもそのおぞましさにくらくらした記憶がある。また、部隊長石井四郎が帰国して隠れていた場所も自宅の近所なので・・・
この作品に関してはフィクションなので、それほど問題提起をしているわけではなく、ほぼ国家機密を知った男とその妻の物語。互いに信じることの夫婦愛を描いているのですが、疑いの目を持ってみれば色々な思惑が想像できるのです。まずは福原優作(高橋一生)と一緒に満州に渡った甥の文雄。人体実験のノートを優作の妻・聡子(蒼井優)に渡すものの、金庫に隠したフィルムをも見つけたため、幼なじみである特高の泰治に密告。おかげで優作も呼び出されるが、文雄が優作との関係を自白しなかったため夫婦は助かるという展開。
「文雄さんは絶対に自白しないと思ったわ」などと軽い口調の聡子だったが、優作はこの時点で妻に裏切られたと思ったに違いない。はっきり言って、聡子は甥を特高に売ったのだ。コスモポリタンの正義だとか現在の幸福だとか言い争った末のことだし、この段階でアメリカ亡命は聡子を囮にしようと考えたのだろう。一人でアメリカに渡り、自分の生死情報にさえデマを流し、戦争が終わるまで身を潜めていたのか、その辺りは全く不明。
優作による密航者を捕まえるよう特高に教えるという徹底した手口。第三者だから大丈夫だろう。生きていればまた会えるというメッセージさえ考えられるが、精神病になったという聡子の演技には愛があったのだろうか?もしかして優作に復讐するんじゃないかという思惑も感じられるのだ。スパイの妻として、もしくは自らがスパイのごとく、復讐するつもりで戦後渡米したんじゃないだろうか・・・などと考えれば、夫婦の4年間の騙し合いという、相当重厚で面白い心理劇なのです。また、ABCD包囲網や石油輸入が禁止になったことも知ってるので開戦させるために機密を売るなどと言っていたのも口実だと思う。むしろ、戦後に売ったほうが史実にマッチする。
一方、草壁弘子を殺したのは本当に旅館の主人なのか?という疑問も残ってるし、文雄がその後どうなったのかも知りたいところ。そもそも弘子が死んだってのも疑わしいし、ドラモントがその後どういう活動をしていたのかも知りたいところだ。こうなったらドラえもんのタイムマシンを借りて真実を確かめるしかない!
そんなこんなで、ストーリーも面白いし、山中貞夫の『河内山宗俊』の映像や溝口健二の新作(タイトルわからず)といった映画ファン向けのエピソード。それに加えて、趣味のサイレント映画が効果的に使われているのも嬉しい感じ。モノトーンの蒼井優が美しかったこともあるし、銃で撃たれるシーンを見た直後の台詞「お見事」にはお見事としか言いようがない。
今晩は
私は黒沢清監督作品は、家族で観に行った伊丹監督の「タンポポ」の海女さん役を演じた洞口依子さんが観たくて、”こっそり”と「ドレミファ娘の血は騒ぐ」を観て”かなりがっかりし”それ以来、遠ざかっていたのですが「岸辺の旅」を観てから再び見始めました。
黒沢監督の”あちら側”と”こちら側”の交わり方をイロイロな手法で描くスタイルが私は好きですね。
では、又。
おはようございます。
今作品は黒沢監督作品としては、見易いほうかなあ、と思いましたが、レビューに書かれているように、解釈の仕方は観客に委ねている部分が多かったですね。弘子の殺害犯の件等。731部隊の石井氏の件には驚きました。
では、又。