劇場公開日 2020年9月4日

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「骨太な文明批評をバックボーンに秘めた作品で、今シーズンの必見作です。」人数の町 お水汲み当番さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0骨太な文明批評をバックボーンに秘めた作品で、今シーズンの必見作です。

2020年9月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

この造形、この仕組み。
まったく私は類例を観たこともないオリジナリティに富んだ作品で、なぜタイトルが「人数の町」でなければならなかったのか。それも、観ればストンと理解できます。

ひとたび入ってしまったら最後、二度と出られない世界。依存症の世界。
それは違法薬物でも、カルト集団や宗教でも、スマホやネットやSNSやゲームの世界でも、すべて同じ仕組みです。

入ってきた人間に、疑問を抱かず最大限喜んで滞留してもらえるように世界を用意しつつ、仕組んだ側は利益を持続的に吸い上げ続けるという点など、よくよく練り込まれた作品であり、骨太の文明批評精神を込めて描かれた作品です。

報酬を得るため、ハツカネズミなど小動物対象に行われる実験と同じことが、ここでは人間に対して行われています。
ほめほめタイムと称して、なんの意味もなくホメ言葉を並べ立てるだけで、ときどきジャンフクードが貰える。嬉々としてジャンクフードを手にできた人間の惚けた姿は、まさに飼育されている実験動物そのものではありませんか。

パチンコに限らず、依存症をもたらす人間の「報酬系」の問題を、ここまで端的に指摘しているシーンの恐ろしさ。よくぞ練り上げたものだと恐れ入りました。

また、いつでも脱出できるのだよ、と人々を信じさせるための破れたフェンスのエピソードなど、ほんとうに鳥肌が立ちました。

主人公が、これで脱出できたと信じた最後の瞬間、実は一歩も抜けられずにいたというところなど、この恐ろしさ、罪深さ、どうでしょう。

映画では一言しか触れられていませんが、この安逸に暮らせるフェンスの内側の世界に、中高年の人間が一人もいないという点も、考えれば考えるほど恐ろしくなるのですけどね。

大学の研究施設で飼われている実験動物は、実験が始まるまでは、ストレスフリーでぬくぬくと飼われているものですから。

俳優たちの演技で光っていたのは、脇役ですが、スタイル抜群の立花恵理。黒木メイサに似て目チカラが強く、映画初出演とも思えない名演技で、正直、ものすごく、そそられました。

お水汲み当番