「怖さが足りない」新感染半島 ファイナル・ステージ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
怖さが足りない
ビデオゲームのバイオハザードに似た作品である。バイオハザードが、アンブレラという巨大な製薬会社が生物兵器開発の人体実験のために作ったウィルスが流出してゾンビが大量発生してしまったという設定であるのに対し、本作品はゾンビ発生の原因が曖昧である。理由も発生源も不明のウィルスが蔓延してゾンビが大量発生している状況からストーリーがはじまる。
元軍人という主人公の設定は、戦闘能力という点からもバイオハザードと同じにならざるを得ないのかもしれないが、もう少し工夫があってもよかった。加えて、素人の主婦がたった4年で軍人並みの戦闘能力を身につけたり、中学生くらいの少女がドリフトを駆使するA級ライセンス以上の運転技術を披露したりするのは現実的ではない。百歩譲ってその辺もありだとしても、家族に対して一般の人間と同じような感情を見せるのはどうかと思う。
他人の死に慣れてしまった軍人は、たとえ家族が死んでも油断することはない。戦闘訓練を受けてきた人間も同じだと思う。元自衛官で様々な格闘術を受けてきた人を知っていたが、その人の視線は遠くを眺めているようでとても不気味だった。こちらを見ているように見えて、視線は外れている。視界の真ん中だけでなく上下左右からの攻撃に備えると、そういう眼付になるらしい。
本作品の登場人物には冷酷な軍人らしい眼付が少なく、そういう意味での怖さが足りなかった気がする。他人の死に慣れてしまうと、死に心が動かされることがなくなる。家族に対しても同様だ。本作品の登場人物にはリアリティが欠けている。
ゾンビの発生とは無関係の悪役は、脳足りんの暴走族みたいに浮薄で存在感がない。悪役に重味がなければ天秤の一方の主人公の重味もなくなる。だからだろうと思うが、本作品の主人公には人間としての奥深さがない。味方となる女性陣は儒教の国らしく封建的だ。子供は親の言いつけを守らなければならないという考え方である。愛情よりも上下関係。
結局、登場人物の誰にも感情移入できないまま、映画が終わってしまった。アクションとカーチェイスはそこそこ面白かったが、それだけだ。今年1本目の映画は、駄作という感想に終わった。