劇場公開日 2020年7月31日

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「人にやさしくを謳い上げる高校生たちの青春群像」君が世界のはじまり ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0人にやさしくを謳い上げる高校生たちの青春群像

2020年8月11日
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鑑賞方法:映画館

大阪の外れにある町に住む高校生男女6人のはじまりの物語。

優等生の縁(えん)と素行不良の琴子の幼馴染の友情。

家庭の事情に苦しみ涙する業平にひとめ惚れする恋模様。

母と別れた父親に嫌悪する純と義母と関係を結ぶ転校生、伊尾との刹那な関係と触れ合い。

好きな女の子に認識してもらえ無いサッカー部の人気者、岡田。

冒頭に起きる殺人事件から、一転して彼らの六人の青春模様が、一見平和な府立高校で、それぞれ悩みや問題を抱えた現状と心情を、程よいテンポで交互に描写されてゆく演出で、台詞も上手く削ぎ落とされて説明調にならないで紡がれてゆく。

秋から冬に向かう季節に、互いに不満と孤独を抱えた五人が、閉店後のショッピングモールで、束の間交流を経て、変わる後半のところは、「人にやさしく」を歌う場面も含め瑞々しくて素晴らしい。

六人の若手役者の演技も素晴らしくて皆、リアルだが、硬さも無く、表情もとてもいい。

特に、縁の松本穂香の大きな瞳に戸惑いながらトボける表情や奔放な幼馴染とのくされ縁も垣間見える態度などもとてもいい。

琴子の中田青渚が、奔放だか純情でおきゃんな雰囲気を醸し出して存在感がある。琴子のキャラも面白い。しまむらと融和性の高いネオヤンキーのファッションセンスと吸うタバコがハイライトとは。大阪のおばちゃんか!

業平の小室ぺいの俳優初挑戦とは思えない、落ち着いた動作と表情の出し方。特に縁の家族と夕食を共にする場面の微笑む表情と本業でもあるミュージシャンとしてのボーカルの時の凛々しさの使い分け。

原作も兼ねる、ふくだももこ監督は、女性のセクシャリティを扱った短編集『20世紀の女の子』での一篇を担当していたが、その時の作品は正直なところ記憶に無いが、今回監督した130分の長編を淀みなく的確に演出しており、今後の活動が楽しみ。

ふくだ監督が、自作小説の脚本を任した向井康介は、山下敦弘監督と「リンダ リンダ リンダ」や「もらとりあむタマ子」などの良作を連発しており、オリジナル要素も加味しながら作品の質に貢献している。

個人的には、撮影の渡邊雅紀に注目している。これまでは自主映画がメインだったのに、担当した本作では見事な画面構成と若者の煌めく瞬間の輝きを捉えていて、美しいルックと完成度に刮目してしまう。
ロケ撮影での、外光へのこだわりも良い絵をモノにしている印象。
しかもこれが初メジャー作品なのに堂々と見事な映画にしている。

ネタバレあり

冒頭に起きた殺人事件が、実は同じ悩みを持つ同級生が父親を刺殺していたと知り、同じ境遇である自分達と彼にメッセージを投げかける。

そこから皆の新しい一歩がはじまり、一人残されていた、琴子も巻き込んで、タイトルに沿うようなラストもいい。

ブルーハーツの曲で「人にやさしく」がキーになる展開が、世代的に疑問符をつける点かも知れないが、現在でもCMや高校野球の応援などに使われ、親子二代で受け継がれているバンドなので違和感は無いと思う。
曲の使い方もインパクトがあり映画の主題に沿っている。

ティーンムービーで時折、雑に扱われる大人達も子供に対して、まともな役割りを与えられているのも良い。(伊尾の義母には無いが)

気になるところは、殺人の下りは、途中から誤解を生むサスペンスが発生して青春譚として考えると無くても成立したのかも。
もう少し地方都市のわびしさと閉塞感を匂わせると、東京に拘る転校生、伊尾の苛立ちも理解しやすいと思う。

個人的に思うのは、ショッピングモールで行動とやり取りが「ブレック・ファースト・クラブ」と「ゾンビ」のオマージュを感じて面白い。
そういえば、無人のショッピングモールで歌い踊るといえば、青春ゾンビ映画の「ナイト・オブ・ザ・コメット」での名場面で、シンディ・ローパーの「ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン」をBGMに主役の姉妹が、楽しそうに歌い踊るところも踏襲しているのかも。

色々上げると切りがないが、ティーンムービーの枠を超えて上質で瑞々しい良作品。

余談。
イオンシネマ座間を初めて利用したが、最新のレーザープロジェクター映写機を導入しているので、明るめな場内で流れる予告編もハッキリ、クッキリ見えて良好。

ミラーズ