クリシャのレビュー・感想・評価
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居心地の悪さが爆発する。
高級車がずらりと並ぶ瀟洒な住宅地、年季の入ったトラックに愛犬を乗せた女が駐車スペースを探す。運転席のドアにはスカートの裾が挟まっている。慌てたせいか、鈍感なのかは分からない。芝生の上でスーツケースを引き摺る。どう見ても女は場違いな存在なのは間違いない。
感謝祭の七面鳥を料理することになったクリシャは、数年ぶりに家族と顔を合わせる。誰もが微笑んで迎えてくれる。表層で偽りに満ちた笑顔が耐えがたい。慌てて薬を飲み平静を装う。今の自分は「正常」であることを示さねばならないからだ。
過去に何があったのか。なぜ、誰もが不信のまなざしを向けるのか。家族の表面的な笑顔の下には、絶対的ともいえる不信感が潜む。言葉の裏にある棘が彼女を追い込んでいく。まさに針のむしろに置かれた女は、遂に手を出してはならないボトルを抱えて部屋に逃げ込む。
トレイ・エドワード・シュルツ監督は確信犯だ。スタンダードの画面に閉じ込めた感情をワイド画面で爆発させる。主人公を演じたクリシャ・フェアチャイルドを筆頭に、監督の親族がリアルな演技で排他的格差社会をあぶり出す。
それにしてもこの居心地の悪さは何だ。その狂おしさは、カサヴェテス作品のジーナ・ローランズを思い起こさせる。特に『こわれゆく女』のことを。
集団というものに、どこか恐怖を感じてしまう人たちへ。
クリシャという主人公は明らかに依存症をはじめさまざまな問題を抱えていて、だからこそ家族親族の集まりにプレッシャーとストレスを感じているのは間違いない。ただ、クリシャほど酷い状態にいるわけではなくても、この映画は普遍的なホラーとして機能すると思う。
集団、こそ家族というものが、いかに暴力的なものになりうるのか、神経を逆なでし、デリカシーを踏み荒らし、自分が自分を嫌いな部分をどれほど明白にさらけ出してしまうのか。この映画は、そんな集団恐怖症的な感覚をみごとにビジュアルに落とし込んでいる。
ああ、心は開かないくせに口数ばかり多い面倒なオッサンや、やたらと腕相撲をしたがる体育会系の子供たち、女性が女性に押し付ける家事や料理、もうなんでもかんでもが暴力である!と極論を叫びたくなるほどに、イヤな時間を共有できるという意味で、とてもいい映画でした。
しかしキャストのほとんどが監督の家族親族っていうのもすごいな。一体どんな血統なのか!
クリシャ
アルコール依存、薬物依存をテーマに描かれた映画。
しばらく会ってない親戚のおばさん、家族がいて久しぶりの再開!って時に以前の印象と激しく変わってたらびっくりするし怖いよね。
人が多く集まるなら尚更。
それぐらい、依存は人を変えるし、時間は人を変える映画だなと思って観てました。
※批評には個人の価値観が含まれています。ご了承ください。
親族の集まりほどくだらない人間関係ってないと思う
過去に何か問題があり、親族から疎まれているクリシャが久しぶりに家族に会いに来るが、なかなか上手くとけ込めないためどんどん不安定になっていく話。
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『Waves』の時もそうだったけどこの監督、家の中のゴタゴタ感を観客もその場にいるように見せるのが本当にうまい。誰が誰か全く説明はされないけど、何となくクリシャがヤバい人っぽいこと、明らかにクリシャに気を使う親族たち、家の中に漂う家父長制の匂い、などなど、他人の家を覗き見てる感じが面白かった。
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監督の実の家族たちが出てるらしいのでそこら辺のリアル感は納得。
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私は親族の集まりなんて、女同士の場以上にマウントの取り合いの場だと思っているので、親族が沢山いる中で息子とちゃんと話そうって言うのは難しいと思うわ。たまの法事でしか合わない、少しだけ血が繋がってるけどお互いのことなんて全く興味なくて、でも表面だけ気を使う親族の集まりって誰得なんだろう。しかもそんな人達が故人を偲んでご飯を食べる法事って何?とか思ったり。
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画面の比率が変わるのについてはもう真新しさはないけど、最後狭まって終わった今作から『Waves』はちゃんと回復に向かうようにしたんだなと。
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家族だからこその・・・
アルコール依存等の問題から家族と疎遠になっていた女性が、久々に再会した皆の中で苛まれる様子を描いた作品。
感謝祭のホームパーティーに参加したクリシャは、一応歓迎されるも、家族達や特に確執を抱えた息子の態度はどこかたどたどしい。
努力した、治した、と言っても人の心の弱さは中々変えられないもので、クリシャの行動はドンドンと悪い方向に・・・。
作品全体を通して、知り合いにこういう人1人はいるよなぁ~と共感させてくれる部分もあれば、逆にクリシャ目線から見れば、楽しく過ごす皆の中でも感じる孤独や、何となく感じる嫌な視線なんかは、誰にも1度は経験があるのではないでしょうか。
彼女らの過去やその指、リチャードや更なる婆ちゃん(!?)に何があったのだろうか。
気になる謎もあるが、何よりもクリシャは勿論、息子や姉さんの泣きの演技の悲壮感は見事の一言!ちょくちょく胸を刺す深いセリフが聞けるのも良いですね。
鬼気迫る表情にずっと飽きずに観れるし、楽しさの中にも何となく漂う不穏な空気が終始うまく表現された良作だった。
悲しくてエグい親族物語
期待ハズレな一作でした。
この作品はどーいう意図でつくられたのだろうか?とずーっと考えたまま
終演しちゃいました。着想は監督自身親族での出来事だそうで。
うーん、何をテーマにしたかったのかなー?見えない、、、わかることができなかったです。
姉妹、一族の「愛情という名の暴力(?)」を描きたかったのか?
人間の弱さを描きたかったのか?
母の変わらぬ愛情(狂人に近い)を描きたかったのか?
ただ、ただ親族って面倒なことあるよねーってことを言いたかったのか?
わからん・・・・。わかりませんでした。
僕には依存症抑止映画に見えました。
更生施設で流されてもおかしくないなーと。
ただ、本作はなかなかの緊迫感、緊張感、絶望感を見せてくれます。
巧みですねー。クリシャの人物像を登場から5分くらいでわからせちゃうあたり良いです。
裾が挟まったドア。痺れます!
出てくる肉親じゃない家族との会話が良いです。
うんうん、肉親以外の想定外キャラっているよねー。
親族一同会している雰囲気よく出ていました。
本作はクリシャの人物の深いところをあまり描いていないと思いました。
クリシャはどーいうつもりで参加したんだろ?治療はどの程度やったのだろ?
そこが浅いので母親のエゴと人間のエゴ出しまくりで、自爆していく様を見ても、
なんら心動かないんですよね。「自業自得じゃん」としか思えないのです。
これまで頑張ったからご褒美期待したけど、自分が甘すぎて、再度沼へ・・・くらいにしか見えない。
その薄さが・・・残念です。
ただ、主演女優の凄まじい演技は拍手!
恐ろしファミリー映画♪
ゾンビとかサスペンスとかパニックとか、どんなに怖い映画でも所詮他人事。がしかし、これは本当に身近にありそでなさそである話よ。怖いですよ。親戚の中に一人はいますよ、こういう人。やらかすなよー、つー緊張感。。。誰しも思い当たるだけに、リアルな恐怖となって身にしみる。。。こっわ〜!!
親戚一同が集まる時の緊張感
酔っ払って余計な事言っちゃったりする親戚の叔父さんとかを思い出す。
子供だった頃空気が変わるのだけは分かった、一番本音を言っちゃいけない場所で言っちゃうあの瞬間。
今こんな作品観ると、みんな胸の内は隠してるんだなと思う。
ドランの作品も似た感じで胸の内がドロッと出てくるけど、この監督の描き方は独特で、心が消耗してしまった。
そこにある孤独
以前、薬物とアルコール依存症だった60代女性が、親族一同が集まる感謝祭のホームパーティーに参加する話。
疎ましがられた過去を持ち、不安もありつつも克服したクリシャを歓迎する家族達の喧噪の中で、独り不安定になっていく展開。
傍からみると、何やってるんだよとか、バカだなぁ、と咎めたり呆れたりとという印象を受ける様なことだけど、本人視点でみせている為、哀しさややるせなさ、同情心が先に立つ。
投げっぱなしに近いところも感じるけれど、ここからの掬いでは安っぽくなりそうだし、これはこれで面白かった。
七面鳥が示すもの
本作の舞台になっているアメリカの祝日である感謝祭(サンクスギビング・デー)とは、アメリカに足を踏み入れた開拓者が、初めての収獲を神に感謝したことを記念するもの。
それが転じて、現在ではこの日に各地に散らばっている家族も一堂に会して、アメリカで暮らせることを祝う意味合いがあるが、中には疎遠だったり不仲になっている者同士が顔を合わせることで、ひと悶着起こるケースも少なくない。
本作主人公の老女クリシャも、過去に犯した過ちを悔いて、ほぼ絶縁状態の息子に歩み寄ろうとするも、空回りするばかり。
とにかくいたたまれないクリシャを中心に描かれる本作は、悲劇であり喜劇でもある、いわゆるトラジコメディ。
感謝祭の食卓に出される七面鳥(ターキー)は、完全に心がつながっていない家族を繋ぎ止める唯一の象徴だが、しかしこれは食べ物から時限爆弾へと変化していく。
起爆スイッチを持っていたのはクリシャだけでなく、家族全員が持っていた。要は誰がスイッチを押すのか、なのだ。
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