劇場公開日 2021年4月17日

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「居心地の悪さが爆発する。」クリシャ 高橋直樹さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0居心地の悪さが爆発する。

2021年7月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

高級車がずらりと並ぶ瀟洒な住宅地、年季の入ったトラックに愛犬を乗せた女が駐車スペースを探す。運転席のドアにはスカートの裾が挟まっている。慌てたせいか、鈍感なのかは分からない。芝生の上でスーツケースを引き摺る。どう見ても女は場違いな存在なのは間違いない。
感謝祭の七面鳥を料理することになったクリシャは、数年ぶりに家族と顔を合わせる。誰もが微笑んで迎えてくれる。表層で偽りに満ちた笑顔が耐えがたい。慌てて薬を飲み平静を装う。今の自分は「正常」であることを示さねばならないからだ。
過去に何があったのか。なぜ、誰もが不信のまなざしを向けるのか。家族の表面的な笑顔の下には、絶対的ともいえる不信感が潜む。言葉の裏にある棘が彼女を追い込んでいく。まさに針のむしろに置かれた女は、遂に手を出してはならないボトルを抱えて部屋に逃げ込む。
トレイ・エドワード・シュルツ監督は確信犯だ。スタンダードの画面に閉じ込めた感情をワイド画面で爆発させる。主人公を演じたクリシャ・フェアチャイルドを筆頭に、監督の親族がリアルな演技で排他的格差社会をあぶり出す。
それにしてもこの居心地の悪さは何だ。その狂おしさは、カサヴェテス作品のジーナ・ローランズを思い起こさせる。特に『こわれゆく女』のことを。

高橋直樹