キング・オブ・シーヴズ : 特集
【実話】その額約25億円!英国史上最高額の金庫破り
成し遂げたのは平均年齢60歳超えのオールド窃盗集団
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2015年4月2~5日、イースター(復活祭)ホリデー。英ロンドン随一の宝飾店街ハットンガーデンで、現金や宝石類など約1400万ポンド(当時のレートで約25億円)が盗まれた。多くの宝石商が利用し、厳重に守られていた貸金庫業者の金庫が破られたのだ。
この英国史上最高額の窃盗事件がメディアで報道されるやいなや、熱狂的な推測合戦が巻き起こり、国中が捜査の進展を見守った。やがて、誰も予想しなかった意外な犯人像が浮かび上がる。それは平均年齢60歳以上の“オールド窃盗団”だったのだ。
1月15日から公開される「キング・オブ・シーヴズ」は、「英国史上最高額&最高齢の金庫破り」と呼ばれた実話の映画化である。
本特集では、物語の見どころ、キャストの素晴らしさ、劇中に散りばめられた映画ファン胸アツの要素、そして「マイケル・ケインからの挑戦状」と題した鑑賞レビューを掲載する。
引退したはずの“泥棒の王”
最後の大仕事――騙し合いの末に待ち受ける結末とは
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まずは物語から解説していこう。計画を立てたのは、イギリス国内でもっとも名高い宝石泥棒で、「キング・オブ・シーヴズ(泥棒の王)」と呼ばれた当時77歳のブライアン・リーダー(マイケル・ケイン)と、謎多き唯一の若手メンバー、バジル。ブライアンは愛する妻のために犯罪から足を洗っていたが、その妻が急逝したことで、再び“大仕事”を成し遂げようと決意する。
そのために集められたのは、かつての悪友であるテリー、ダニー、ケニー、カールの4人。百戦錬磨のベテラン強盗団が、バジルとともに綿密な計画を練るのだった。
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犯行当日、計画通り貸金庫に侵入することに成功。しかし不法侵入警報器が鳴ってしまったり、金庫の厚い壁に穴を空けられなかったりと、何度も窮地に陥ることに……。果たして彼らは、どのようにピンチを切り抜け、世界中を驚かせる大犯罪を成し遂げたのだろうか?
そして、本当の“物語”は金庫破りの後に始まる。オールド窃盗団が繰り広げる裏切りと駆け引き。彼らが迎える結末とは――?
英国紳士代表マイケル・ケインの“悪”っぷりが最高!
映画ファンが唸るオール名優キャストがここに実現
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次に、キャストとキャラクターの魅力を紹介していこう。鑑賞前の予習に、あるいは鑑賞後の復習に一読すれば、より豊かな映画体験が味わえるはずだ。
★マイケル・ケイン/ブライアン・リーダー役
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ブライアン:窃盗団の最年長で、「義賊の最後の生き残り」と呼ばれている。いざ実行の日を迎えるが、なぜか突然計画から抜けると言い出し……。
イギリスを代表する名優であるケインといえば、マシュー・ボーン監督の「キングスマン」シリーズ、クリストファー・ノーラン監督の「バットマン」シリーズや「インセプション」「TENET テネット」など、どんな役どころでも上品さを失わない“紳士代表”のような存在。
今作でもそのクールな品の良さは健在で、窃盗団のイギリスらしいシニカルなユーモアが心地よいスパイスとなっている。なんといっても最高の見せ場は、ブライアンが感情的になり悪態をつくシーン。ケインがこれまで見せたことのない、本物の“悪”な姿に注目だ。
★ジム・ブロードベント/テリー・パーキンス役
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テリー:ブライアンとは旧知の仲。シニカルなジョークを好む好々爺だが、猟奇的な面も持ち合わせる。
ロンドン音楽演劇アカデミー(LAMDA)卒業後、舞台役者としてロンドン屈指の劇団の作品に参加。2001年には「アイリス」でアカデミー賞の助演男優賞を受賞したほか、「ムーラン・ルージュ」「ブリジット・ジョーンズの日記」とその年を代表する作品に出演。「ハリー・ポッター」シリーズのホラス・スラグホーン役でも知られる。
★トム・コートネイ/ジョン・ケニー・コリン役
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ケニー:見張り要員。頼りないビリーを勝手に仲間に引き入れ、ひと悶着起こす。
主演した「長距離ランナーの孤独」(1962)で英国アカデミー最優秀新人賞を受賞。「ドクトル・ジバゴ」「ライラの冒険 黄金の羅針盤」「カルテット!人生のオペラハウス」「モネ・ゲーム」「さざなみ」などに出演。トニー賞に2度ノミネートされるなど、主に舞台俳優として活躍している。
★ポール・ホワイトハウス/カール・ウッド役
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カール:金庫破りを成功させるために臨時で雇われた。実はメンバーのなかで2番目に若い。
英イースト・アングリア大学に入学し、大学時代はパンク・ロック・バンドを組んで音楽に没頭していたが、スティーブン・フライやヒュー・ローリーと出会ったことで演劇の道に進む。「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」「ネバーランド」「チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密」「スターリンの葬送狂騒曲」などに出演した。
★レイ・ウィンストン/ダニー・ジョーンズ役
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ダニー:恰幅がよく膂力に長け、貸金庫に最初に侵入する特攻隊長。
7歳からボクシングを始め、アマチュアで80勝を収める。その後、ボクシングを辞めて演劇学校に通い、1976年にテレビドラマで俳優デビュー。79年、映画に初出演し、ケン・ローチ監督の「レディバード・レディバード」などに出演した。ゲイリー・オールドマン初監督作「ニル・バイ・マウス」で英国アカデミー賞の主演男優賞にノミネート。そのほか、「ディパーテッド」「ランゴ」「ヒューゴの不思議な発明」といったアカデミー賞受賞作や候補作でバイプレイヤーとして活躍し、今後の出演作としてマーベル映画「ブラック・ウィドウ」が公開を控えている。
★マイケル・ガンボン/ビリー・ザ・フィッシュ・リンカーン役
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ビリー:ケニーの友人で頼りない故買屋。裏ルートで宝石を売りさばくために参加する。
映画、舞台、テレビと幅広く活躍し、シリーズ第3弾「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」から、故リチャード・ハリスさんに代わりダンブルドア教授を演じた名優。王立演劇アカデミー卒業後ロンドンの名門劇団に所属し、シェイクスピアから現代劇まで様々な作品で座長を務め、ローレンス・オリビエ賞をはじめとした演劇賞を幾度も獲得。スクリーンデビューはローレンス・オリビエ主演の「オセロ」で、1980年代後半から映画出演が増加していった。
★チャーリー・コックス/バジル役
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バジル:全体の作戦を取り仕切ったブレーンであり、窃盗団の最年少メンバー。
「dot the I/ドット・ジ・アイ」でスクリーンデビュー後、「ヴェニスの商人」でアル・パチーノやジェレミー・アイアンズと共演。「カサノバ」では故ヒース・ レジャーさんと共演し、「スターダスト」では主演を務めた。本作のジェームズ・マーシュ監督とは、「博士と彼女のセオリー」に続き2度目のタッグとなった。
映画史に残る贅沢演出!あなたはいくつ発見できる?
差し込まれるキャストの過去作映像が胸アツ
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今作では、“オールド窃盗団”が“泥棒の王”として名を馳せたかつての様子として、キャストの過去の出演作映像を差し込まれている。映画ファンにはたまらない、胸アツな贅沢演出だ。
ここでは挿入される映像の一部を解説する。下記の名作をはじめ、日本では公開されていないレアな映画やドラマが多数使用されている。誰がどの作品に出演しているかわかったあなたは、かなりの映画通!
★「ギャング情報」(1962)「SOSタイタニック 忘れえぬ夜」のウィリアム・マッキティが製作した密告者と刑事のサスペンスドラマ。
★「大列車強盗団」(1967)イギリスで実際に起った強盗事件に取材した作品。
★「ミニミニ大作戦」(1969)400万ドルの金塊強奪に挑む泥棒グループの奮闘を描いたイギリス製クライムアクション。
★「ロンドン大捜査線」(1971)給料強盗計画の展開にからむクライムアクション。
【編集部レビュー】マイケル・ケインからの挑戦状
この味わいがわからなければ、映画好きを名乗れない?
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最後に、編集部による鑑賞レビューをお届けする。
物語の前半は、「オーシャンズ11」などを彷彿とさせる軽妙かつクールなケイパームービーである。大胆な計画が立案され、準備が手際よく進んでいき、金庫へスムーズに侵入する。オールド窃盗団の動きは当然ながらダイナミズムに欠けるが、それでも名優たちが織りなす老獪で鮮やかな盗みのテクニックには「さすが」と舌を巻くばかりだ。
彼らの計画は大成功を収め、札束は乱舞、勝利の美酒で赤らむ男たちの笑顔が映し出されて映画は幕を閉じる……とはいかないから驚かされる。これはあくまでも物語の前半部分。さらなる山場は後半に用意され、鑑賞前には予想もしなかった危険な領域へと疾走していく。
どんな展開なのかは、ネタバレになるため具体的な言及はしない。しかしこのてん末に、あまり映画を見ない人たちは、えてして「なんじゃこりゃ」と首を傾げてしまうかもしれない。
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ところがこれは、見る者の“映画の経験値”を試しているとも言える。マイケル・ケイン扮するブライアンが、ジム・ブロードベント演じるテリーを面罵するさまを、あなたはどう見るだろうか? 「ハリー・ポッター」シリーズの深遠なるダンブルドア役で知られるマイケル・ガンボンが、キーキー声でしゃべる間抜けな男を演じる姿に、なにを感じるだろうか?
描写の背景に秘められた“味わい”がわからなければ、映画好きを名乗れるかどうか……。今作は、マイケル・ケインから日本の映画ファンへ向けた“挑戦状”でもある。「我こそは!」と思う人は、ぜひとも劇場へ足を運び、不敵に挑発する物語に身を投じてみるといい。
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個人的に印象的だったのは、窃盗団が計画を練るいくつかの場面。ブライアンたちはいつだって、衆人環視のパーティ会場やパブやレストランで、ところかまわず盗みの手口を話し合う。しかし周囲の人々は、彼らを咎めたりしない。なぜなら老人たちが大それた悪事を働くとは夢にも思っていないからだ。そして意識的に目をそらしたりもしない。そもそも老人たちがそこにいることに、気がついてすらいないからだ。
この一連のシークエンスに、無関心を決め込んだ社会に対する厳しい視線がこめられているように思い、ハッとさせられた。悪事こそ我が人生と信じる人々は、かような社会構造のうえに生じた“影”のようなものなのだろう。
……そんな「自分はこう思った」という解釈を、誰かに話したくて仕方なかったため、こうして筆をとった次第だ。なにはともあれ、映画好き同士で語り合いたくなる逸品。あなたの解釈を聞かせてほしい。(映画.com編集部 尾崎秋彦)
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