「【同一民族間に”出来てしまった壁”を、知恵を絞り、乗り越えた2家族の闘いの日々を尋常でない緊迫感で描き出した作品。ラストのカタルシスと共に、現代社会への強いメッセージ性も感じられる作品。】」バルーン 奇蹟の脱出飛行 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【同一民族間に”出来てしまった壁”を、知恵を絞り、乗り越えた2家族の闘いの日々を尋常でない緊迫感で描き出した作品。ラストのカタルシスと共に、現代社会への強いメッセージ性も感じられる作品。】
ー第二次世界大戦終戦後、ドイツは東西に分断され、ベルリンの壁が築かれた事は周知の事。冒頭のテロップでも流れるが、その壁を乗り越えようとしてシュタージ(国家保安省:秘密警察の機能も持っていた。)に殺された人は100名を優に超える・・。-
■前半パートの尋常でない緊迫感
1.熱気球での最初の突破シーン。
二家族(電気技師ペーター一家と熱気球を設計したギュンター一家)の脱出が重量的に無理と分かり、ペーターの家族4人が乗り込む。
国境まであと僅かまで北風に乗って気球は進むが、燃料装置が水滴の氷結により上手く作動しなくなり(高度1700Mである。)不時着。ペーター達は命からがら逃げ帰る。ペーターの妻は落下地点に薬を落としてしまい・・。
ー2年掛けて準備したのだから、めげるよなあ・・。そして、大きな心配事が・・。-
2.東ドイツの相互監視体制及びシュタージの緊迫感。
一般市民による密告・・。劇中、ペーター達が”幻想で見る”数々のシーンの恐ろしさ。物資も潤っていない状況・・。
ー同じドイツ人なのに、西ドイツとの違いたるや・・。ペーターの隣人はシュタージ勤務だが、彼に”チャーリーズ・エンジェルが見たくて”TV修理を依頼する程である。ー
ギュンターの父の言葉が印象的である。”私はこの生活に満足しているが、未来あるお前は安易に妥協するな・・”
3.二回目の挑戦への過程。ー今作の一番の見どころであろう。ー
挑戦の意欲を無くしかけていた親たちを再び励ます子供たちの言葉。
街の人々に怪しまれないように、気球の布を少しづつ購入したり、燃料の置き方を工夫したり、ペーターの息子と臨家の娘との淡き恋も効果的に描かれる。
街の人々の描かれ方も、彼らの逃亡を薄々感じながら、シュタージに言わないギュンターの幼き息子が通う保育園の女性保育士や、シュタージに協力する人達など様々である。
ペーターの妻が落とした薬や、布地の購入店の情報により彼らを追い詰めるシュタージ達。だが、彼らも失敗をするとどうなるかという場面も効果的に挿入される。
ーまさに当時の東ドイツが、相互監視社会、ミスを許さない不寛容な社会であることが生々しく描かれる。-
そして、彼らは二度目の脱出に臨む・・。ギュンターは二度と会えないかもしれない父の姿を最後に目に焼き付けて、バイクを飛ばす・・。
ーシュタージの包囲網をかいくぐる、緊迫感が凄い・・。ー
<二家族の強く、深い絆により彼らに漸くもたらされた”自由”。
あの、開放感溢れるラストシーンはやはり、心に響く。
又、その後の東西ドイツの行き来の改善がTVで流れる場面を、感慨深げに見入る彼らの姿も印象的である。>
<2020年9月13日 刈谷日劇にて鑑賞>