「これほど貴重な映像と音源、そして証言を引き出した二人のターナー監督に深く敬意を表したい一作。」メイキング・オブ・モータウン yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
これほど貴重な映像と音源、そして証言を引き出した二人のターナー監督に深く敬意を表したい一作。
現在から見ればモスバーガーと勘違いする人も多そうな、モダンなロゴが特徴のモータウン。創設者のベリー・ゴーディ・ジュニアが考案したビジネスモデルと音楽性はたちまち世界を席巻し、黒人の社会的地位の変化にまで影響を及ぼしていく。そんなベリー・ゴーディの破天荒な一代記。
「私たちの音楽をブルースやポップスと言うジャンルではなく、スタンダードにしたいんだ」といった意味の作中の台詞が示すように、まさにモータウンが「スタンダード」に駆け上がっていく過程を、信じられないほど貴重な音楽と映像で見せてくれます。
モータウンのビジネスモデルは、 ゴーディもかつて働いていた自動車工場の生産手法を取り入れています。といっても、字面から連想されるような、同じようなアーティスト、楽曲を大量生産する体制ではなく、発掘したアーティストをどのようにヒットメーカーに仕上げていくのか、その方法論を体系化したところにこのモデルの真髄があります。
ゴーディはこの構想に基づいて様々なアーティストを発掘し、そのたびにモータウンとそれが生み出すモータウンサウンドは大きく自己変革を遂げています。その中でも間違いなく大きな転換点となったのは「ザ・スプリームス」のプロデュースで、なかなかヒット曲に恵まれなかった彼女たちに、ゴーディはその個性に合った楽曲を提供し、黒人に対する偏見の強かったテレビ番組にも受け入れさせていきます。その証言と映像が圧巻であることはもちろん、改めて「ザ・スプリームス」の歌声の素晴らしさに感動します。
アーティスト発掘計画書を模した図面がたびたび現れ、今何を語っているのか、これからどのような話を展開しようとしているのかが視覚的にわかりやすいように作られています。プレゼンテーションの手法としても見事。また単に映像をつなげるだけでなく、非常に効果的な加工や編集が加えられており、ドキュメンタリー映画であるにもかかわらず劇映画を観ているようなスリリングさがあります。というか、よくこんな細かいところや舞台裏まで、映像に記録していたな、と半ば感心、半ば呆れることもしばしば。
60年代70年代には、何をやっても成功していたゴーディが、80年代に入ると手塩にかけて育てたアーティストたちに相次いで離反され、凋落して行く様子までも、まさに当事者たちの証言によって語っていきます。普通なら非常に陰惨な芸能界暴露ものどうなってもおかしくないような展開。しかしゴーディの屈託のなさや、彼の元から巣立ったアーティストたちが依然として彼に深い敬意を払っているなどが相まって、むしろ和やかさすら伝わってきます。
まぁ、作中でちょっとだけ触れていたモータウン内の血縁関係をめぐるいざこざも含めていたら、かなり違った感想になったでしょうが。
結末直前に提示された「あるもの」を巡り、それまで伝説のアーティストとして振る舞っていた彼らが見せる素の表情が最高。ベリー・ゴーディとスモーキー・ロビンソンの掛け合いも、時に笑いを、時に涙を誘います。ゴーディは90歳を前にして(全く見えない!)引退を表明しているのですが、まだまだ何か仕掛けそうな予感に満ちていました。