「佐々木を突き動かす渇望に深い共感を覚えるずっしり重い戯曲『ゴリラーマン』」佐々木、イン、マイマイン よねさんの映画レビュー(感想・評価)
佐々木を突き動かす渇望に深い共感を覚えるずっしり重い戯曲『ゴリラーマン』
東京国際映画祭のワールドプレミアで鑑賞。
売れない役者の悠二は元カノのユキと同棲を続けながら細々とバイトに勤しむ虚しい日々を送っていた。そんな折高校時代の親友多田と再会、同窓会に佐々木が来ていたことを聞かされる。ありふれた高校生活の中でギラギラと異彩を放っていた佐々木。懐かしい思い出と久しぶりに舞い込んだ舞台『ロング・グッドバイ』練習中の葛藤が悠二の中で交錯する。
時制が複雑に前後する中で高校一の奇人佐々木と演技者として作品と向き合う悠二の胸の内が少しずつ浮き彫りになるドラマ。換気扇の下での喫煙、生乾きのTシャツ、ニンテンドー64やカップ麺、寂れたバッティングセンターにカラオケボックス・・・そこにあるだけで痛々しい背景の中で何者にもなれない二人に突きつけられる厳しい現実とそれに拮抗する慎ましやかな安らぎ。何気ない言葉に突き動かされた人生が壁にぶつかった時に鳴った電話から怒涛のように転がるクライマックスが残す余韻が印象的な作品。
とても惜しいのは佐々木と悠二の関係性とフラッシュバックが戯曲『ロング・グッドバイ』の物語と構成にオーヴァーラップしているというところが解りにくかったこと。そこは演出側の問題ではなくて観客のリテラシーの問題ですけれども。本当はそれこそがこだわりだったと思いますが恐らくあんまり伝わってなかったかなと。あと恐らくですが『君の名は。』にインスパイアされてる部分も多いかと。時制が交錯するところとメチャクチャリアルな背景描写、特に悠二とユキが泊まる旅館の一室はモロにそれじゃないかと思います。あと佐々木達のいる放課後の空気感は『ゴリラーマン』にも通底していると思いました。
個人的には佐々木を演じた細川岳の演技が印象的。舞台挨拶で壇上に上がった時に誰だか判らなかったくらい別人の好青年だったので驚きました。あとはユキを演じた萩原みのり、最後に語る優しさと残酷さを湛えた台詞は胸に突き刺さりました。ちなみにKing Gnuの井口理がカメオ出演ながらリアルな演技を添えていることも付け加えておきます。