劇場公開日 2021年1月15日

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「相手の幸せより自己満足感がしないではない力業な感動作」43年後のアイ・ラヴ・ユー バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0相手の幸せより自己満足感がしないではない力業な感動作

2021年1月17日
PCから投稿

ハリウッドや映画業界の50~70年代に活躍していた俳優がリアルに70歳、80歳になっているいうことで、映画業界にも高齢化問題というのは押し寄せてきているわけだが、どうしても役というのは限られてきてしまっていて、与えられる役というのは、ボケていたり、病気だったり、死が間近だったり…と何だか寂しくなってしまうものが多い。

老人というのは、映画に欠かせないキャラクターではあるが、それほど多くは起用されないという、需要があっても枠が狭いだけに、安定したドラマなどテレビ俳優になることも多いし、中には、俳優というのはね常に夢を与え続けるという意識でいる人も多く、老いていると感じられる前に引退する名優というのも珍しくはないのだ。

これは日本も同じことで、亡くなってしまったが樹木希林なんかは、そういった誰もやりたくない役というのを率先してやってくれるということで、出演作がやたら多かったのだ。

呼び方が正しいかは不明だが「記憶喪失もの」というジャンルがある。記憶を失ってしまった、失ってしまう家族や恋人を描いたものではあるが、こういった作品は、『私の頭の中の消しゴム』『8年越しの花嫁 奇跡の実話』など「若年性の記憶障害」を扱ったものは、現実的には少数派として存在していることではあるものの、一般的にみればある程度、ファンタジーのような観方になるわけだが、老人となると話は違ってきて、一気に身近なものに感じられてしまう。

果たして、それがリアルに70代オーバーユーザーが観たいかということだ。個人的には、まだ30代ということもあって、あまり感じないながらも、自分の祖母のことなどを思い浮かべると複雑な気持ちになるものなのに、リアル70代オーバーユーザーはどんな観方をしているのだろうか。かと言ってそんな世代の人にダイレクトに聞くというのも、なかなかできない。

主人公クロードがアルツハイマーのふりをして、施設に潜り込むという設定によって、コメディ・コーティングされていることで、ある程度和らげられているが、娘の夫婦問題や孫娘の恋愛模様も描かれていたりと、ポップに描かれているため、視点としては、かなかりチカチカしている。

それでも70年代からセクシー女優として活躍してきたカロリーヌ・シオルがアルツハイマーの役というのは、悲しいものがある。

『男と女』の53年後を描いた続編『男と女 人生最良の日々』では、男女の役割は逆転しているものの、描いていることは似ている。(製作年としては、今作の方が先)

しかし、『男と女 人生最良の日々』の場合は、1作目の映像をフラッシュバックさせながら、真面目に失われた記憶の探求を描いていて、動機も家族経由であったのに対して、今作は自己満足的観点が大きい。

今まで追いかけ続けていたということであれば、素直に「純愛」ものとしてとらえることができるのだが、きっかけが、たまたまリリィが施設に入ったということをニュースで知ったからであるため、突発的で身勝手である。

43年という空白の期間には、クロードも知らないことが多くある中で、美し記憶の中で美化されたリリィの姿を追い求め、それを断片的に思い出させることが、果たしてリリィにとっても、家族にとっても幸せなことなのだろか。

かつての恋人が自分のことを覚えていないという悲しさはわかるし、それを何とか思い出させようとする気持ちがわからなくもないが、クロードは妻に先立たれていて自由かもしれないが、リリィには夫が健在という状況で、あまり自分勝手な印象も残ってしまう。

記憶を記憶として戻しているのか、それとも過去に意識だけが戻っているという一時的なものなのかもわからないが、確かに感動できる部分はあって、上手くまとめてあるような感じもしないではないが、細部にはあまり手が行き届いてはいない力業感がしてしまう。

冒頭に書いた通り、自分自身が70代オーバーユーザーでなければ、少し離れた目線で単純な感動ありコメディ作品として楽しめると思うが、「老い」というのが、リアルに突きつけられる世代にとっては、なかなか美化されすぎた物語に思えてしまうかもしれない。

クロードが不良ジジイという設定だから、許されるかといえばそうかもしれないし、あえてリアリティを薄めていることが今作のリアルに近い世代への「優しさ」かもしれないが…

バフィー吉川(Buffys Movie)