「地獄のような100分」事故物件 恐い間取り MADAKIさんの映画レビュー(感想・評価)
地獄のような100分
かつて日本を席巻したJホラーを語るうえで、欠かせない監督といえば、「呪怨」や「輪廻」の清水崇、そして「リング」シリーズ、「仄暗い水の底から」の中田秀夫であろう。他にも黒沢清とか鶴田法男とかいるけど、作品の知名度を鑑みるに、この二人は外せないと考える。
しかし、近年の二人の撮るホラーって、もう、なんというか、ひどくない?正直言葉が見つからないくらいひどい。粗ばかり目につき、登場人物がみんなアホか健忘症でないと説明のつかない言動を繰り返し、一事が万事ご丁寧に言葉で説明しないと気が済まず、小道具やちょっとしたやり取りで設定やら真相を語っていく演出、まるで怖くない怪異のVFX。
清水の方は悪名高い「村」シリーズでその名声を地の底まで急転直下させたが、中田監督が亀梨和也を主演に送り出した本作も、同氏の評価を水底にまで叩き落すにふさわしい怪作となった。
【良かった点】
・最初の雰囲気だけは悪くない。売れないお笑い芸人の窮余の一策として、事故物件に住んでみたことから得られた経験を売りにするという導入のために、ちゃんとスベったネタを披露し、相方が芸人に見切りをつけて放送作家になり、唯一ネタを面白いと言ってくれたヒロインにもあまり心を開けないなど、その追い詰められっぷりがよくできている。
・(「村」シリーズのせいで相当ハードルが下がっていることを考慮しても、)ごくごくごく一部の怪異演出は悪くない
・ラストの不動産屋のシークエンスは面白いけど、そこに力入れられてもな…
【悪かった点】
・序盤でリソースが尽きたのか、中盤以降どんどん話がちぐはぐになっていく。最初の物件の段階で赤い服の女によってコンビ二人とも事故にあったにもかかわらず、二軒目ではヒロインが溺れかけ、三軒目で自身が首つり自殺しそうになったにもかかわらず、「売れるため」とどんどん過激な物件に手を出していく主人公。二軒目の時点でヒロインに「もう迷惑かけない」とか言っておきながら、東京進出を止めようとするヒロインを見捨てるムーブの唐突さ。主人公はもしかして記憶が三日くらいしかもたない人?だとしたらその設定で一本作った方がまだ見れる作品になりそう。その辺はもうちょい設定や演出でどうにかなると思うのだけど、なぜこれでいけると思ったのか。
・最後の物件のひどさ。最後に対決するラスボスっぽい奴(死神?)の前フリとして、なんか有象無象っぽい霊が妙にくねくねした動きと奇抜なビジュアルで主人公に襲い掛かるんですよ。このシーン、ずっと「水曜」的なドッキリを一回挟んで、緊張緩和させたところに本命がガーっと来る感じね、はいはい、と思って身構えていたんです。ところが、冬ソナもかくやというグルグルしたカメラワークで亀梨に襲い掛かる雑魚霊コスプレっぽい奴らが、上野で怪しげなジジイに売りつけられたお守りをかざすと雲散霧消。「は!?」という声が思わず出た。
・ラスボスのシークエンスが最悪:雑魚霊を退けたあと、シームレスに黒ずくめの死神(仮)が迫ってくるけど、こいつがまあ怖くないの。急にアメコミのヴィランが来たのかなってくらい見た目で浮いてる。そして大阪や、どこか知らんけど実家から、タイミングよく主人公を助けに来るヒロインや元相方。前も「樹海村」下なんかのレビューで書いたことだけど、この辺の作品って、あえてゼロ→イチでシークエンスをぶった切ることで衝撃を与えるとか緊張感を高めるとかじゃなくて、脚本がマジで間の動きを書けない。せめて事前に亀梨のやつれてるところを出すとか、事故物件の真相に辿り着くとか、登場人物が「あえてする」長距離移動の動機を説明しなさいよ。そして極めつけに、退治というか撃退の仕方。信じられます?元相方が線香にまとめて火をつけて吹きかけたら助かるんですって。ラスボスの倒し方がそれでいいの?
最近テレビでも心霊番組をやらないと聞く。映像が綺麗すぎて逆にリアリティが薄くなったり、ネットで簡単に情報が得られるから怖がらせるのが難しくなったというものの、そういうリアリティラインの変化に対応するのがクリエイターの役割なんじゃないのか。「村」シリーズでも思ったことだけど、とりあえず判で押したように生配信やらテレビ電話のように現代的なガジェットを一つまみして、画面にノイズを入れたりして表面だけなぞってるくせに、それが全然怖さに結びつかない。正直なところ、日本で全国規模で上映されるホラーは、2016年の「残穢」以来皆無だと思っているんだけど、2020年に入ってもこのザマ。(出来は残念だったけれども)ハリウッドデビューまで果たした監督の作品がこの体たらくとは、邦画ホラーの死にっぷりには背筋が凍る思いだ。