「ドリフの恐怖演出を現代に蘇らせた勇気は称賛したい。」事故物件 恐い間取り yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
ドリフの恐怖演出を現代に蘇らせた勇気は称賛したい。
以前YouTubeで、たまたま事故物件に住むという人の配信動画を見たことがあるけど、本作の原作者である松原タニシさんではなかったようで、意外に「事故物件もの」という分野が広がっていることを実感しつつの鑑賞です。
『女優霊』(1996)がホラー映画のオールタイム・ベストの一つで、『リング』(1998)にも感動した観客として、中田監督の最新作である本作にも強い期待がありました。確かに番組編成の内幕を見せつつ、実際に収録を開始する序盤まではわくわくして鑑賞していました。しかし得体の知れないものが出現するあたりから、ちょっと違和感を感じ始め、結末近くの描写は、あまりにも陳腐かつありきたりな演出過ぎて、むしろ新鮮さすら感じてしまうほど。度々現れる「異形の者」の造形といい、恐怖演出の陳腐さといい(洗面所で手をバタバタとか、「あれ」の大集合とか、ギャグ表現でしか見たことがないんだけど)、正直「中田監督はこれで了承したのだろうか…」と疑問に思う描写が続き、これは物語上の仕込みに違いない!という期待が次々と裏切られる事態に。結局本作で一番恐かったのが、思わせぶりな予告編だったとは…。
使い古された家屋や生活感のある部屋を表現した美術は、『来る』(2018)にも匹敵する緻密さで素晴らしいです。しかし肝心の物件の雰囲気が使い回しを疑うほど描き分けができておらず、その努力があまり報われていないのは残念。
中田監督は確かにホラー映画の名手として有名だし、ドラマ『本当にあった怖い話』で実績を積んできたけど、本人としては特にホラー映画にはこだわっていないそう。そのためホラー映画監督としての自分の評価を相対化したかったのかも、と最大限に好意的に解釈したとしても、『来る』や『呪怨:呪いの家』が公開された後にこれとは…と首をひねらざるを得ませんでした。
本作を評価する上で一つの基準となるのは、社会(現実)と亡霊との間の境界線の引き方を受け容れられるかどうかでしょう。
本作における亡霊は、
・映像に映る、見える
・人に直接接触することができる(危害を与えることができる)
・インターネット上のサービスを操作することができる
ことが前提となっています。そのため作中の誰もが、即座に怪異な現象を亡霊の仕業として受け容れます。もちろん主人公の芸人がどのような目に遭っても、「これは果たして超常現象なのか!?」という根本的な問いを発することはありません。
いっそのこと、人間と超自然的な存在が共存する世界で、物件に居着いてしまった不幸な地縛霊を解放する話とか、ドリフターズの伝説的なコントに敬意を表して、ホラーギャグ映画を作りました!という方向性であれば上記の境界線の設定が活きてくると思うんですが。
鑑賞後、中学生らしい観客が「面白かったー!」と言っていたように、もちろん楽しめる(笑える)要素はあるし、決して映像的には手を抜いている訳ではありません。劇場公開映画としての水準には十分達しているのですが、やはり中田監督作品として観れば、演出や物語構成に問題が多いと言わざるを得ません。定価で鑑賞したら、満足よりも不満に感じる観客の方が間違いなく多いでしょう。