劇場公開日 2020年8月28日

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「奈緒の好演と江口のりこの怪演」事故物件 恐い間取り 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5奈緒の好演と江口のりこの怪演

2020年8月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

 意外に怖かった。この手の映画は巻き込まれた人たちの極限状況が、周囲の人たちの平穏な日常と比べてどれだけギャップがあるかによって恐怖感が違ってくる。一般社会と隔絶した寂寥感や無力を自覚した危機感があれば尚怖い。
 本作品は主人公が平穏と極限を行ったり来たりするし、テレビの企画ということもあって沢山の人々が注目していることから、怖さはさほどでもないだろうと思っていた。亀梨和也と瀬戸康史は表情の乏しいのっぺりとした演技で、この二人だけだったら予想通りの怖くないホラー・コメディになっていたと思うが、相手役の奈緒と不動産屋さん役の江口のりこの怪演のおかげで予想外に怖い作品になったと思う。
 特に奈緒は主役級のはたらきをしていて、演じた梓ちゃんの設定がいい。途中から梓ちゃんの視点で鑑賞したら主人公ヤマメの視点で観るよりずっと怖かった。ということは最初からヤマメの設定を梓ちゃんの設定にしておけば、周囲の誰からも理解されない孤独と孤立に追い込まれるから、もっとずっと怖かったかもしれない。そうなると霊感のない梓ちゃんは主人公を理解できない立場になって複雑な演技が要求されることになるが、奈緒ならこなせそうな気がする。そして孤立無援の主人公を助けるためには不動産屋さんがさらに怪演をしなければならないが、これも江口のりこならやれそうである。最大の問題はそういう孤立無援の主人公を演じるのは亀梨くんには難しいということだ。
 出演者の顔ぶれからすると、それぞれの所属会社の思惑が交錯しているのは誰にでも判る。製作者はかなり苦労した筈で、中田監督の思い通りにならない部分もあったのだろう。「リング」とはかなりテイストが異なっていた。作品としての評価は3.0くらいだと思うが、奈緒の好演と江口のりこの怪演を0.5プラスして3.5としておく。

耶馬英彦