ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密 : 映画評論・批評
2022年4月5日更新
2022年4月8日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー
ジュード・ロウの魅力炸裂。冒険心を刺激する仕掛けも見応えたっぷり
前作の公開から3年半が経つが、グリンデルバルドが最後に巻き起こしたダークな展開は微塵も脳裏から離れていない。きっと最新作も言いようのない重々しさで満たされているはず―――そんな覚悟を持って臨んだ筆者は、予想が気持ちよく覆されていくのに驚いた。重々しさもあるにはある。でもそこで際立つのはむしろ、冒険心を刺激する上質なワクワク感だった。
その特色は魔法動物学者のニュート(エディ・レッドメイン)が密林へと分け入っていく冒頭から極めて顕著だ。作り手たちは言葉やセリフに頼りきるのでなく、映像の力をなるだけ駆使して状況や感情を伝えようとする。そうやって印象的に浮かび上がるキリン(麒麟)という生物を要に、いくつもの国を股に掛けたストーリーを一本の動線で巧みにまとめ上げていく。
今回、ダンブルドアが作戦の指揮を執るのも重要なポイントと言えよう。我々が「ハリー・ポッター」シリーズでよく知る彼と、若い頃の知られざる彼。決して単純には割り切れない多面性をジュード・ロウが一つの体の中で見事に成立させている。飄々としながら温もりがあり、それでいて胸の内に何かを秘めたロウを、こんなに様々な角度で堪能したのは初めてだ。
ダンブルドアが召集する6人のメンバーの中には、ニュートやその親友のジェイコブ(ダン・フォグラー)、さらに今回の映画に破格の躍動感を与える呪文学の教師ユーラリー(ジェシカ・ウィリアムズ)がいる。彼らの戦いは常に孤軍奮闘で崖っぷちではあるけれど、その反面、ダンブルドアの作戦らしい遊び心と創造性が一杯で、やっぱり観ていて無性に楽しさがこみ上げてくる。そしてキャラクター間で交わされる“粋”な空気もまた格別なのである。
そうそう、ジョニー・デップが去ったのは残念だが、マッツ・ミケルセンも決して負けてはいない。特殊メイクではなく、ほぼ”そのまま”の姿で勝負するのは非常に彼らしいし、地に足のついた悪役ぶりがシリーズに従来と一線を画した風を吹かせていることは確か。
総じて、本作は一人一人の個性が満遍なく活かされた見応えのあるファンタジーに仕上がっているのではないか。この時代だからこそ希望を絶やさず、本能的に楽しめるものを、という意味合いもきっとあるのだろう。まっさらな心で魔法の世界へ飛び込む。絆で結ばれた仲間を信じる。そんなシリーズの本質に立ち戻った一作と言えそうだ。
(牛津厚信)