エルヴィス

劇場公開日:

エルヴィス

解説

「キング・オブ・ロックンロール」と称されるエルビス・プレスリーの人生を、「ムーラン・ルージュ」「華麗なるギャツビー」のバズ・ラーマン監督のメガホンで映画化。スターとして人気絶頂のなか若くして謎の死を遂げたプレスリーの物語を、「監獄ロック」など誰もが一度は耳にしたことのある名曲の数々にのせて描いていく。

ザ・ビートルズやクイーンなど後に続く多くのアーティストたちに影響を与え、「世界で最も売れたソロアーティスト」としてギネス認定もされているエルビス・プレスリー。腰を小刻みに揺らし、つま先立ちする独特でセクシーなダンスを交えたパフォーマンスでロックを熱唱するエルビスの姿に、女性客を中心とした若者たちは興奮し、小さなライブハウスから始まった熱狂はたちまち全米に広がっていった。しかし、瞬く間にスターとなった一方で、保守的な価値観しか受け入れられなかった時代に、ブラックカルチャーを取り入れたパフォーマンスは世間から非難を浴びてしまう。やがて故郷メンフィスのラスウッド・パークスタジアムでライブを行うことになったエルビスだったが、会場は警察に監視され、強欲なマネージャーのトム・パーカーは、逮捕を恐れてエルビスらしいパフォーマンスを阻止しようとする。それでも自分の心に素直に従ったエルビスのライブはさらなる熱狂を生み、語り継がれるライブのひとつとなるが……。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」などに出演したオースティン・バトラーがエルビス・プレスリー役に抜てきされ、マネージャーのトム・パーカーを名優トム・ハンクスが演じる。第95回アカデミー賞では作品賞、主演男優賞ほか計8部門にノミネートされた。

2022年製作/159分/G/アメリカ
原題:Elvis
配給:ワーナー・ブラザース映画
劇場公開日:2022年7月1日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第95回 アカデミー賞(2023年)

ノミネート

作品賞  
主演男優賞 オースティン・バトラー
美術賞  
撮影賞 マンディ・ウォーカー
衣装デザイン賞  
編集賞 マット・ビラ ジョナサン・レドモンド
音響賞  
メイクアップ&ヘアスタイリング賞  

第80回 ゴールデングローブ賞(2023年)

受賞

最優秀主演男優賞(ドラマ) オースティン・バトラー

ノミネート

最優秀作品賞(ドラマ)  
最優秀監督賞 バズ・ラーマン
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映画レビュー

4.5バトラーに魅入られ、ブラックなハンクスに圧倒される

2022年7月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 エルヴィス・プレスリーのことはリアルタイムでは知らないし、取り立てて詳しいわけでもない。ただ、聞いたことのある楽曲、見たことのあるビジュアルから、象徴的なイメージは知っているくらいだ。
 そんな私が、映画館を出るときには「エルヴィス最高……」になっていた。全ての瞬間がカッコよくきらびやかで目が離せない映像、ミュージカルのような密度で2時間40分に詰め込まれた(4時間版もあると監督が公言している)素晴らしい楽曲たち、ミュージックビデオのような編集でとんとん拍子に進むストーリー。目まぐるしく変わるシーンの中でも、彼の歌手としてのルーツや魂、栄光がもたらす喜びと苦悩が、鳴り続ける楽曲たちと共にしっかりと胸に響いてきた。

 幼いエルヴィスがゴスペルと出会い、音楽の啓示を受ける短いシーンの説得力とインパクト。その後オースティン・バトラーがみずみずしいエルヴィスとして現れ、しっかり歳を取り、自然な貫禄を醸し出してゆく姿が特に圧巻だった。バトラーのことは「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」で見たものの正直ノーマークだったので、余計に衝撃が大きかった。
 実際のエルヴィスの映像が出てくるシーンもあるが、雰囲気にほとんど違和感がない。エルヴィスに詳しい人はもしかすると何かと不満があるかもしれないが、それは誰が演じたってゼロにはならない。私は見せ場のライブシーンで、実際のエルヴィスのライブ映像を見ているような錯覚を覚えた。あの熱量のせいだ。
 1960年以前の歌唱シーンは、全てバトラー自身が歌っているという。60年以降のシーンでは、バトラーとエルヴィスの声をミックスしたり、エルヴィスの声を使ったりしている。
 ゴスペルを浴びて育ったエルヴィスは、差別と闘う意図というより、ただ歌いたいから、体の動くままに歌う。それが結果的に、差別がまかり通っていた時代への反逆になる。その姿がまた「本物」らしくていい。
 彼が影響を受けた音楽を体現する黒人ミュージシャンも魅せる。特にリトル・リチャード役のアルトン・メイソンに見惚れた。

 「いい人」を演じることの多かったトム・ハンクスのパーカー大佐も強烈だった。ハンクス、こういうブラックな役も映える。「幸せへのまわり道」で久しぶりに見た時、年取ってふっくらした?と思っていたので(あれも役作りだったのか?)、さらに太ったのか?と思わなくもなかったがさすがに特殊メイクだった。
 (というか、ハンクスの現在の姿を検索したらむしろ痩せていた。一昨年、本作の撮影準備でオーストラリアにいたときにコロナに感染したりしていたが、大丈夫だろうか……)
 悪人と呼ばれる人間にも多面性がある。彼との出会いがなければ、エルヴィスはこれほどの名声を得られなかったかも知れない。でも、彼がエルヴィスのパフォーマンスの結晶を食い物にし、アメリカ国内に閉じ込めたのもまた事実。映画に描かれなかった部分まで知れば、さらに印象が変わることもあるだろう。よくも悪くも深みのある人物で、彼を主役とみなしても物語が成り立つほどの存在感だった。

 有無を言わせぬ密度で強烈な光と底知れない闇を、不世出のスターの栄枯盛衰と人生の濃さを垣間見せてくれる作品。
 劇中歌の解説、エルヴィスの周りの人々の詳細、必聴アルバムリストに名言集、用語解説やエルヴィス出演映画紹介まで入った親切過ぎるパンフレットはお得感あり。

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ニコ

4.5エルヴィス降臨の衝撃を体感させる過剰さの勝利

2022年7月30日
PCから投稿

エルヴィス・プレスリーという時代からハミ出た過剰なスターを表現するにあたり、バズ・ラーマンという過剰な演出家がみごとにハマった。最初のライブシーンから1950年代ではあり得ない歪んだギターが唸りまくっていて、この映画が歴史の再現ではなく、エルヴィスという衝撃を現代の観客にいかに体感させるかに重きを置いているのがわかる。オースティン・バトラーの渾身のパフォーマンスも、完コピというより、リミットを知らないエルヴィスの魂をトレースしている気すらしてくる。

プレスリーの人となりや偉業を知るには数々のドキュメンタリーや書物が存在しているが、この地上にエルヴィスが降臨したインパクトのデカさを感じるには、この絢爛豪華な映画絵巻こそがふさわしい。伝記映画にしてエルヴィスの再解釈にして、概念としてのエルヴィスの再創造。そしてそれでもなお揺らぐことのないエルヴィス・プレスリーという存在の大きさに改めて圧倒される。

あとオースティン・バトラーには各映画賞で主演男優賞を獲ってほしいと思うが、あの最初のライブシーンで最初に叫び声を上げてしまう女の子を演じた俳優に、誰か助演賞をあげてほしい。とりあえず自分の中ではブッチギリの助演賞です。

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村山章

4.5最高のショーを探し続け、エルヴィスにたどり着いた強欲マネージャーの人生も伝説級

2022年7月14日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:試写会

レオナルド・ディカプリオの主演映画「華麗なるギャツビー」(2013年)のバズ・ラーマン監督が、本作ではロック・シンガー、エルヴィス・プレスリーの成功の裏側を描いている。
エルヴィスと聞くと、私は「リロ・アンド・スティッチ」(2003年)に出てくるエルヴィス像のイメージが強い。特徴あるもみあげと衣装でハワイらしい愛の歌をロック調に歌っていた。作中でエルヴィスの曲が流れると逆境が前向きな展開になることが多いため、いつの間にか私も彼の曲が好きになっていた。
しかし、実物のエルヴィスとは接点が乏しく、彼の足腰の動きにも秘密があったこと、禁断のロックを生んだこと、若くして謎の死を遂げたスーパースターであったことなども知らなかったので、映画「エルヴィス」を見て発見の連続。
本作は、エルヴィスの少年期からの描写もあり、彼の音楽スタイルのルーツ、人気を得てからの苦悩が悲しいほど胸に響く作品となっている。エルヴィスの才能をいち早く見抜いた強欲マネージャー(トム・ハンクス)との関係が「危険な実話」の鍵となっているところや、エルヴィスのパフォーマンスから目が離せないほどの臨場感が伝わる楽曲や演技が大きな見所であった。
主演男優賞と助演男優賞の賞レースに関わりそうな(エルヴィス役の)オースティン・バトラーとトム・ハンクスの熱演も必見レベル。
私は映画を見終わった後、エルヴィスのステージは、彼が亡くなる間際まで観客を魅了したことは確かで、女性を痺れさせたシーンは嘘も偽りもないと感じた。女性ファンが多く、当時は独特すぎると評された「彼のロック術」は、早い段階で男性も引き込まれていたはずだと想像した。

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山田晶子

3.5歌手とマネージャーの関係性を偏重した作劇。エルヴィスの音楽性や創作過程への関心は?

2022年7月3日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

興奮

序盤、トム・ハンクスが特殊メイクで演じるパーカー大佐がエルヴィス・プレスリーのステージを初めて見る場面が、まさに映画の観客が青年になったプレスリーと出会う重要なシーンにもなっていて、プレスリー役のオースティン・バトラーの歌と特徴的な下半身の動きも見事に再現され、客席に瞬く間に広がる熱狂もスリリングに描写されている。

ただ残念に思うのは、幼少のエルヴィスがゴスペルを聴いて神の啓示のような神秘体験をしたことが音楽との出会いとして描かれ、そこから先述のステージに立つ青年エルヴィスまでの過程がほとんど描かれない点。あの表現力豊かなボーカルも、刺激的に腰と脚を揺らすパフォーマンスも、スタイルを確立するまでは場数を多く踏み、トレーニングを重ね、ときには試行錯誤もあったはずだが、そこはあっさり省略されてしまう。

原案・脚本に名を連ねるバズ・ラーマン監督が作劇の軸にしたのは、エルヴィスとパーカー大佐の関係性だ。大佐の商才もあって、マネジメント契約を結んでほどなくエルヴィスは大成功し、母亡きあとは精神的な依存を強めたりもするが、意見が合わず衝突することもあった。エルヴィスは浪費をエスカレートさせる一方で、大佐はしたたかに搾取し、経済的に自立できなかったエルヴィスは結局大佐から離れることができなかった。華やかなショービジネスの世界で未曽有の成功を手にし、けた外れの名声と富に翻弄された2人の愛憎は、確かに劇を構成し推進する要素として描き甲斐があっただろう。だが、そちらに力を入れすぎるあまり、音楽史に多大な影響を与えたアーティスト、パフォーマーとしてのエルヴィスの魅力を表現することがおろそかになったように思えてならない。

エルヴィス自身は作詞・作曲をしなかったが、メジャーになってからのレコーディングでは、多数用意されたデモ音源から気に入ったものを選び、バンドのメンバーとデモを繰り返し聴いたあと、一発録りのスタイルで納得いくまで何テイクも重ねたという。プロデューサー的な役割も担っていたエルヴィスは、ギターだけでなくベースやピアノを弾くこともあった。歌を歌い楽器を奏でることのシンプルな楽しさと喜び、音楽を作り上げることの素晴らしさをもっと見せてほしかったが、監督の関心はこちらには向かわなかったようだ。

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高森 郁哉