「すべてが面白かった。フィクションならではの丁寧に作られた世界観に感動した。」さんかく窓の外側は夜 Naokisky2さんの映画レビュー(感想・評価)
すべてが面白かった。フィクションならではの丁寧に作られた世界観に感動した。
完璧にエンターテイメントなジャンル映画を観終わったという久しぶりの快感を得た。
「さんかく」の世界とは、安全地帯、自分や自分たちを守る場所、そこから外れるということは、危険な場所、隠したい過去、閉じ込めた思い出の意味なのだろう。
ただその外側が「夜」だとしても、その夜の闇に向き合おうとする主人公たちの物語。
というようにタイトルを解釈した。
主役の三人が素晴らしかった。
フィクションを成り立たせるための現実味を感じた。
自分の存在が世界から疎外されている感じが三者三様に感じられた。
志尊さんの三角くんの怯えの演技が良くて、幼少期から屈折して育ってしまった感じが素直に演じられていたと思う。
岡田さんの冷川さんは、世間とずれている奇人としての立ち居振る舞いが、良かった。あの敬語の感じが、後々ストーリーにつながってくるのは本当に驚いて感動してしまった。
後半に見せる弱さをさらす姿には前半とのギャップがあって繊細な演技をするんだなあと感心してしまった。
平手さんは、ベンチでの志尊さんとのやりとりがすごい良かった。
T1000が人間を見るような目つきしていたなあと。
あと母親を思い出すところとか、胸にぐっと来た。
世界観が提示されるオープニングが良かった。
最近の映画でオープニングがないものが多くて、寂しかったのだけれど、この映画はデビッド・フィンチャーの『セブン』のごとく、世界観がきっちり映像で構成されていたのを見て痺れてしまった。
しかも、歌詞が入っている、というのは勇気がいる判断だったろうが、世界観を損なうことなく、その世界観の深みを増すものとして使われていた。
むちゃくちゃかっこ良かった。
主題歌の女性の声と歌詞がこの映画の世界観をやさしく包んでくれるようでいて、ところどころ本編で主人公たちとの母親との関係が描かれるのだが、そうした母性の象徴として歌われる聖歌のようだった。
劇中の音楽は世界観を損なうことなく本当に適切な場所できっちりと映画に寄り添っていた。
不気味なシーン、残酷なシーンはもちろん、癒しのところでも、うるさくない音楽の使い方が素晴らしかった。画像の力を信じているような、映像と音楽の関係性がとても良かった。
名盤として後世に残るはず。
映像もとても美麗に仕上げられていて、全シーンの構図、配色、照明、美術、効果が美しくて、相当綿密に計画されて、職人さんたちがこだわり尽くして撮影されていたのではないかと思う。
雨の現場とか、最高だった。本当に『セブン』を超えてたと思う。
前半でたびたび見られるゴアな表現も、丁寧に描写されていることで、後々に描写される主人公たちの心の深い傷や葛藤や想いについて観客として感情を入りやすくさせている仕掛けになっていたのだろう。
つながり死体のチラ見せは、『羊たちの沈黙』のそれを思い出させる、丁度よい怖さだった。
編集も素晴らしかった。
繰り返される用水路の記憶、閉じ込めていた教団の記憶、この二つのシーンが素晴らしくて邦画の歴史に残ると思う。
それで主人公たち以外の俳優さんたちもすごい良かった。
滝藤賢一さんの刑事は、存在感が最高だった。
非浦英莉可とのやりとりのシーン、あそこだけ唯一この映画でクスっとできるユーモアの感じられたところだった。
冷川を疑いながらも見守っているような微妙な距離感が面白かった。
筒井道隆さんの登場には心底驚いた。
彼の丁寧口調の話し方をずーっと聞いて育ってきたことが、冷川の現在の話し方につながったことに気づいて、泣いてしまった。
内田慈さんの表情、素晴らしかった。。。
あの寂しそうな目が印象に残った。
『ピンカートンに会いにいく』で知ったのだが、もっと広く認知されてほしい。
マキタスポーツさんも良かった。
ほんと、普通の良き父親であろうとしているはずなのに、何かの拍子で壊れてしまったという背景を感じた。
和久井映美さんの最後の食卓のシーン、これは泣くしかない。
やさしさとか強さとか、息子を信じているという愛情の溢れるシーンだった。
パンフレットは外見も中身も完璧だった。
取材のやりとりとかプロダクションノートとか読みごたえがある。
パンフレットそのもののデザイン性も高くて、松竹宣伝部のこだわりに感動。
あと、死霊のデザインも良かった。
映画版『ほんとにあった怖い話』の体育館のエピソードを思い出した。
いやあ、、、あれ、ビデオでゆっくり見てもビビる、最高の嫌なやつだ。
三角くんがトラウマになるのは理解できる。
本作は作品の世界観を丁寧に創作するために、関わっていた人達のすべてが信頼関係を築き、ストーリに語られるようなつながりを大切にして、完成された美しい映画だと思う。