劇場公開日 2020年9月4日

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「暴力と貧困の連鎖という結論に無理に誘導されている気がする」行き止まりの世界に生まれて バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0暴力と貧困の連鎖という結論に無理に誘導されている気がする

2020年12月3日
PCから投稿

ロックフォードを舞台に、3タイプの人物の視点で、現代社会が抱える根本的な問題である人種問題や暴力連鎖、貧困...などを浮き彫りにしている。
ロックフォードを舞台に描いていることではあっても、アメリカ以外の国、日本にも通じる部分は多くみられる。

例えばヤンキー同士が子供のままの感覚で10代で妊娠・結婚し、社会に無理に出され、限られた労働、生活環境の中で更に離婚したりして、負の連鎖から抜け出せなくなるということは、どこの国でもよくある話で、チラシやパンフレットを見てもトランプが~とか書いてあったりして、無理にアメリカの一部の現状のようにミスリードしているが、実はシチュエーションが違うだけで、現代社会に生きる私たちには、かなり身近に蔓延る問題なのだ。

映画やドラマでも音楽やスポーツを通して、社会問題を提示するということはされてきたが、その中でも貧富の差というのがあり、みんなが貧しいわけではないことが多いのに対して、ダンスやスケートは、貧しさや家庭環境で共通する部分が多い者が集まることが多い。

それを象徴するかのように、今作のベースとなる3人は、誰もが家庭環境に問題を抱えている。劇映画ではなく、ドキュメンタリーであるというのに、人種も白人、黒人、アジア系と見事に分かれたものだ。

今作の監督で出演者でもあるビンは、ゲームや番組などで有名人となったプロスケーターのトニー・ホークに憧れて、スケートをはじめ、スケートビデオとして撮り始めた仲間内のホームビデオをのようなものが、ある時から共通性を持つ問題に触れていることに気づき、12年間を描いた1本のドキュメンタリー作品として完成させている。そこに向かおうとして作られたものというよりは、撮っていたら、ある方向へと向かっていたというのがリアルに感じられるのだ。

ただ、今作の問題点としては、登場する3人、ビン、ザック、キアーのあくまで意見であるということ。ある部分までは、意識して喋ってはいないのだが、ある部分から、作品にしようと意図的に誘導されて、真実の部分は見えなくされている感じがする。

個人的に気になったのが、ザックの奥さんで、のちに離婚してしまうニーナも登場し、その中でケンカするシーンが何度か映し出されるのところだ。
ザックはニーナに対して、子育てをしないで遊びに行っているという口論になり、どっちが嘘をついているのかがわからない。
その後もニーナがザックに殴られてアザになったところが映し出され、ザックに殴られたと言う。
これは、誰もがそうである様に、自分の都合の悪いことは話をしたがらない。カメラが回っていないときでも反射的に隠そうとする人間が、カメラが回っているときに真実を語っているかというと疑問だ。

結局のところ、ケンカや暴力の理由もあやふやのままで、子供の頃に虐待を受けたから、暴力の連鎖でザックも暴力を振るうようになったという結論は、シンプル過ぎる気がしてならないのだ。暴力は問題かもしれないが、自己防衛やあらゆる理由で仕方なく起きてしまうこともある。いくつかの問題が全て環境によってつくられた人間性や閉ざされた人生の道筋に繋がるかというとそうではない気がする。

バフィー吉川(Buffys Movie)