「この映画、好き。エンドロール最後の三枚が良いです。」フィルムに宿る魂 やきすこぶさんの映画レビュー(感想・評価)
この映画、好き。エンドロール最後の三枚が良いです。
まず、序盤のタクシーの中。
沙希を演じた矢野さんの横顔が美しいんです。だけど、それはとても重たい表情なの。
これが、結構印象に残るんですよね。
それで、いきなりなんですけど、レビューをまとめちゃいます。
私、おっさんなので若い時は、フィルムのカメラだったんです。
ちょっと、フィルムとデジタルの違いを考えてみました。
枚数が限られている、撮り直しができない、その場で出来がわからない。
なので、フィルムの方が一枚に重みが有る。
写真を撮る行為が時間を切り取る行為なら、フィルムの方が瞬間の価値が高い気がするんです。
それで思ったんです、人生ってフィルムの様な物なのかなと。
デジタルの様に削除できない。もっとこうしていればと思っても、次に進むしかない。
だけれども、だからこそ、大切に撮られた時間はいつまでも残ると思うんです。
沙希の人生というフィルムに、日向と過ごした大切な時間は、いつまでも美しく残ると思うの。
ここからは、この映画の好きな所を。
まず、役者さん達が良いと思ったんです。
日向のふわっとした感じが良いの。飯山さんの演技力なのか、素でこういうタイプなのかは分からないけど。
ふわっとしつつ繊細な所を覗かせる、皆から慕われるのが納得できるんです。
そして、矢野さん。
今のパートでは、殆どが重たい表情。高校時代の回想シーンでは、日向と触れ合いだんだんと笑顔が増えていく感じが良いんです。
そんな二人の高校時代、初々しくてもどかしくて、思わずハッピーエンドを願っちゃいましたよ。
それから、脇の三人も良いんです。
人物像が深く掘り下げられているわけでもないんだけど、それぞれに魅力的に映るんです。
彼等が魅力的に映れば映るほど、時間に取り残された感じの沙希が痛々しくて。
そして、ストーリー。
多重露光を使って、皆で山登りをやり遂げたのが、良かったな。
あの時の沙希の表情も良かったな。
それから、その少し前にもう一度、タクシーのシーンが有るんです。
その時に、今度は最初と逆の右側から沙希を撮るの。
なので、スクリーン上でのタクシーの進行方向も、逆の左から右へになるんです。
これ、沙希が前に進み出した事を抽象的に表現したんだと思うんです。勘違いかもしれないけど。
そしてそして、この映画で良いと思ったのが、エンドロール。
主題歌が合うんです。
と、思ったら逆で、曲のイメージで映画を作ったんですね。
それで、何より良かったのが最後からの写真三枚。
一番最後は、みんなで撮った多重露光の写真。
その前二枚が、沙希の写真と日向の写真。
これが、とても美しいの。
これはきっと撮った人が、被写体を好きだからこそ撮れた写真だと思えるの。
伝えられなかった気持ちのこもった写真だと、思えたんですよね。
この映画、私とても好き。