ロード・オブ・カオスのレビュー・感想・評価
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これが、2021年「今年の1本」
映画を見たのが4月。そこから今まで引きずっている。そういう作品の強さ、凄さを評価。
この映画、見ている間はずっと緊張が続く。どうなるんだろう、この「悪」はどこまで突き進むのだろう…残酷の極みなのに先を見たくなってしまう。
ラスト付近、映像を観ている間、おそらく悲劇的になるだろう…予測しながらも、脳内に走る持続的な緊張感が堪らない。
それはおそらく、人間の持つ限界点がどこにあるのかを考えさせる材料があるから。
映画に出てくるのは、破滅の道を突き進む若者ばかり。
自殺に突き進む、殺人に突き進む、バンドの覇権争いのトップを奪取するのに突き進む(そのため、バンドの地位を築いた主人公はナンバー2に殺される)。
全員グロテスクだけど、カッコいい。特に自殺願望に囚われ、あっという間に死んでしまうデッド(演じるのはヴァル・キルマーの息子)は、すごい存在感。
欧米人(この場合は北米)=狩猟肉食民族は、日本人のような農耕草食民族には時に理解できない、超越した思考と行動を起こす。
そういう「見たことのない」ものを「見たことのない」卓越した表現力で描き切った力が本当にすごい。
主要な登場人物像は以下のとおり。
バーグ=バンドの覇権争いに勝ちたい。途中からは、とにかく今のリーダー=ユーロニモスを超えたい。
ファウスト(演じるのは、スウェーデンの俳優一家スタルスガルト家の末っ子)=人を刺してみたらどういう感触なのか体験してみたい=悪魔崇拝の中でいろんな情報を得てそう思う。が、結局は自身の承認欲求を満たすための殺人。
デッド=親に虐待された経験からなのか、死にたいばかりの強い欲求。
このような、人間の持つ「果てしない欲求」を抉るように描く作風に、力を感じる。
一方で、祭り上げられながらもどこかにずっと怯えを持つ、そんな優しくナイーブな面も併せ持つ主人公:ユーロニモスのキャラクターを繊細に演じているローリー・カルキン(マコーレ・カルキンの弟)にも人間的な魅力が溢れている。
しかし、若さの暴走とともに、こういう「悪の暴走」が、私がすごく魅力を感じたユーロニモスを襲う悲劇の元凶となること、つまり「悪」は人間の「良さ」を簡単に凌駕してしまう、ということを映画の中でこれでもか、と見せつけられてしまう。
やはり、人間の源は性悪説に基づくものなのではないのか、と思わずにはいられない。
これが、観たあともとにかくずっと頭の中に残り、所属する映画サロンの年間回顧「今年の1本」は一瞬でこの作品を選んだ。
(ベスト1ではなく、あくまで今年の1本)
また、ブラックメタルも、こういう映画のテーマ性とのセットで流れると騒音でなく立派な映画音楽となることを補足しておく。
そんな、悪の中にも総合芸術の「バランス」を見せてくれる(魅せてくれる、惹きつけられる)、数少ない、貴重な作品ということで紹介するのですが、かなり残酷でエグい描写や音響が作中に出てくるため、鑑賞する場合は、それなりに勇気を持っていただくことをおすすめします。
これは悪の本質を表現した青春映画
ヴァルグの「大義のためにやるのか、目立ちたいからやるのかどっちかにしろ」というセリフがこの映画のテーマだと思われますね。
有名になるために教会を燃やした主人公ユーロニモスと、自分は大義のためにやっていると「思いこんでる」ヴァルグ。
同じくヴァルグの「悪魔に魂を売るなと言ったろ?」というセリフ。
ヴァルグにとって悪魔に魂を売ることとは、有名になりたいという自分の欲求を、他人を犠牲にすることで満たすこと。一方ヴァルグは、世界を良い方向に変えるには、多少の犠牲はやむおえないという考えを持っています。ヴァルグが理解できていないのは、二つは実は同じだということ。
生きていれば、理由をつけて自分を正当化したい場面はありますが、それだと人に迷惑をかけてしまうこともある。しかし自分や家族を守るために、そうせざるを得ない場合もあります。
日常に落とし込むと、ファミレスからの帰り、傘立てに自分のビニール傘がなかったので他の人のビニール傘をさして帰った。みたいなことでしょうか?笑
自分を守るために小さな悪は必要なのかもしれません。この悪の肯定こそが、ブラックメタルという音楽の魅力とも言えるでしょう。
最後ヴァルグがユーロニモスを殺したのはおそらく単なる意地の張り合いですね。
自分のいないところで「殺してやる」と言われていたことを聞いて「もういいわあいつ(怒)」となってしまっただけだと思います。映画なので一線は超えているものの、喧嘩の発端はかなりどうでもいいこと。言った本人は本音ではないしあまり覚えてない。友達とか恋人との喧嘩ってこんな感じですよね笑
尖りたい若者たちの青春映画であると同時に、大義という「ハッタリ」に隠れた自我、悪の本質を見事に表現している作品です!
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