「平凡で唯一無二な、あなたの物語」ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語 桃百さんの映画レビュー(感想・評価)
平凡で唯一無二な、あなたの物語
こんなに美しい映画に出会ったのは初めてだった。そしてこの先もこんな美しい作品には出会えないだろうと思う。
ジョー、メグ、ベス、そしてエイミー。平凡な四姉妹それぞれの夢、恋愛、生き方を描いた、平凡な物語。なのに、どうしてこんなに胸がいっぱいになるんだろう。
平凡な物語を紐解くと、そこにあるのは、誰かに憧れたり憎んだりする気持ち、他者と親密になる喜び、何気ないことで家族と笑い合える幸せ、そしてそんな他者や家族を失う深い悲しみ。戦時中のアメリカの四姉妹でなく、現代の日本に生きる一人っ子だとしても、知っている感情だ。それも、心の深いところにある感情。
結婚に幻想は抱かず、独身を宣言し、ひたすら夢を追うジョー。しかし、一番の理解者である姉のメグが結婚し、夢のヨーロッパ行きは妹エイミーに奪われ、天使のような妹ベスは懸命な介護の末、若くしてこの世を去ってしまう。孤独を感じてローリーに甘えようとするも、やはり妹エイミーに取られてしまう。こんなに積み重なると、もうどん底だ。でも、これほどのどん底は、生きていれば誰の身にも起こりうる。私も学生時代に初めてのどん底を味わった。息ができないほど苦しいのに、周りがそれに気づいて手を差し伸べてくれるほど世の中は甘くなかった。そんな状況は、簡単に人を闇に連れていく。あれだけ胸を張っていたジョーだって、夢を諦めると言うのだ。闇は恐ろしい。
だけどそんなどん底から抜け出す鍵は、愛と夢にある。と言うと、なんてクサい綺麗事だと思うかもしれないが、結局のところジョーはベスを想う愛と小説家への夢によって再び自分の人生を取り戻すのだ。
この平凡な物語は、根底に愛や夢という普遍性があるが、そのまま平凡な結末を迎えるわけではない。ジョーは、作家兼校長という、当時の女性ではかなり珍しい、唯一無二の人生を歩むことになる。喜びや悲しみ、愛や夢、誰だって通る道だとしても、そこから見出す結論は人それぞれだ。そしてその過程は時に醜くも、そこから這い出そうとする生き様はいつだって美しい。
演者たちはセリフを読み上げるのではなく、そんな感情の一つ一つを全身で丁寧に表現しており、そこに美しい音楽と綿密なセットと衣装が交わり、かつてないほど力強く、美しい作品となった。
これは平凡な日々の中、様々なことを乗り越え、自分の人生を模索する私たちの物語だ。是非、全ての人に観てほしい。