劇場公開日 2020年6月12日

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「女性の自立が確立された今だから響く物語」ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0女性の自立が確立された今だから響く物語

2020年7月16日
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鑑賞方法:映画館

少女時代の物語と、大人になってからの物語を時系列に並べず、リンクするエピソードで寄せた脚色が上手い。
かなり頻繁に時代を往き来するうえに、各キャラクターは同じ役者が全時代演じているのだが、時代の違いを画面の色調や衣装で表しているので混乱はない。
原作未読の自分でさえ知っているお馴染みのエピソードが効果的に織り込まれていて、テンポがよく最後まで緩みがない。
ストーリーテリングの完成度は高いと思った。

原作は作者オルコットの自伝的小説と言われている。
主人公である次女のジョー(シアーシャ・ローナン)は、執筆しているのは友人だと言って出版社に自分の小説を売り込んでいた。
女性が書いた小説など読んでもらえないからなのか、作者はこういう体験をしたのだろう。
男と女の役割がはっきり分かれていた時代だ。
大伯母(メリル・ストリープ)に時代感を現す台詞が多い。
一方、富豪ローレンスは、ステレオタイプの金持ちではなく、四姉妹を隣人として温かく見守っている。
映画では父親の出番はあまりないが、娘たちを「Little Women」と呼び、子供ではなく女性としてあつかった人物。
そして、四姉妹の個性を尊重しながら自立心を持たせるよう育てた母親のおおらかさは、あの夫あってのこの妻なのだろうと感じた。

印象深いシーンはたくさんあったが、やはり「若草物語」が出版される過程とジョーの恋の成り行きが並行するシークエンスがクライマックスだろう。
ワクワクするし、胸を打つシーンでもあった。
著作権が何かを知らなかったのに、洞察力を働かせて有利な条件を勝ち取る交渉の場面は、ジョーと編集者との同じシチュエーションを映画の冒頭で見せられているので、ジョーの成長を感じると共に、逆転のカタルシスを得られる上手い演出だ。

性格が異なる四姉妹は、時にぶつかったりはしてもお互いを思いやっている。
女性が結婚以外の夢を持つことが珍しかった時代に、夢を追う者とそれを支える者、信じる者。
彼女らの成長譚を清々しく、情感豊かに、そしてエキサイティングに描写している。
演出と物語と演者の技量が見事にシンクロした映画だ。

さて、原作本の翻訳タイトル『若草物語』は文学的な良いタイトルだと思うが、この映画の邦題は如何なものか。わたしの若草物語の「わたし」とは監督のグレタ・ガーウィグのことか、主人公のことか。邦題から、原作の主人公ではない姉妹の別の女性の視点で描き直したものかと思ってしまったのは自分だけ?

kazz