劇場公開日 2020年6月12日

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「それぞれのわたし。」ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0それぞれのわたし。

2020年6月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

幸せ

監督の大胆なアップデートがまさかの感動を齎しているのに驚いた。
次女ジョーの視点で振り返る姉妹それぞれの夢と葛藤、選択と現在。
時間軸の行き来が分かり辛いという面もあるが、大人になってから
自分の過去、子供時代や青春時代を振り返ることはどれほど多いか。
夢、希望、愛、仕事、そしてお金。マーチ家には貧乏という言葉が
常に出てくる。裕福な結婚こそが女性の道標と思われていた時代に、
仕事を持ち自立することが歩むべき道と信じて疑わなかったジョー。

G・ガーウィグだけに女性の自立を描くことは珍しくないと思った。
そうなると男性陣や結婚に対する描写が弱まると思っていたのだが、
これが見事な演出と適材適所。特にローリー役のT・シャラメなど
彼以外に誰がやる?ほどの似合いぶり。ジョー役のS・ローナンは
もちろんなのだが、特筆は何といってもエイミー役のF・ピューの
卓越した演技。こんなエイミー見たことない!ほどのカッコ良さに、
今の現代人に近い価値観と現実を見極める確かな眼力が感じ取れる。
伯母に託された家族を養い守るために選ぼうとした富豪との結婚を、
姉一筋だったローリーに告白されてふいにするのも潔いところだが、
考えてみればローリーも莫大な遺産の後継者なので問題ナッシング。
彼女の思惑はおさまるところへ、ちゃんとおさまっているのである。

監督の作品で恋愛についてこれほど考えさせられたことはなかった。
それぞれの想いを目線で語らせている場面が、時間軸を行き来する。
メグとエイミーは生活重視で富豪との婚活にチャレンジするものの、
やはり想いには抗えない。ジョーは独立して稼ぐことに挑むものの、
そう簡単に成功しない。気付けば大切な人を逃した喪失感に苦しむ。
だけどよく見ると彼女らの目線は、初めからちゃんと好きな相手を
真直ぐに捉えている。そこに介在する金銭や仕事を差し引いて決断
しているのだ。もちろん相手方もそう。目線の一方通行と通じ合う
場面を流れるように繋ぎつつ、やがて現実を直視するその時に本音
が齎されて涙が出る。さすがはマーチ家の両親の娘たちだと頷ける。

個人的にはやはり、孤独だと嘆くジョーと、二番目は嫌だと叫んだ
エイミーの、それぞれの涙が同じローリーに注がれているところが
興味深かった。ローリーは彼女らにとって、恋愛対象というよりは
救世主で、ここぞという時にはいつも助けてくれた恩人なのである。
エイミーの想いは姉への横恋慕から愛に発展したのかもしれないが、
ジョーの想いは「それは愛じゃないわ」と母親に窘められるところ
でハッキリ分かる。どんなに相性がよくても恋人にはなれない二人。
もちろんジョーは、初めからローリーに恋してはいなかったけれど。

さまざまな捉え方で、さまざまな想い出に浸れる新しい若草物語は、
タイトル通り「わたしの」ということになるだろうことも感慨深い。

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ハチコ