劇場公開日 2020年2月21日

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「声を上げる重要性と難しさを教えてくれる作品。」スキャンダル yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0声を上げる重要性と難しさを教えてくれる作品。

2020年3月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

本作は米国の大手テレビ局「FOXニュース」で起きた実際の事件に着想を得て作られた物語です。その点で、本作と同じく女性達を主人公に据えた『ハスラーズ』と共通しています。実話の映画化はかねてよりクリント・イーストウッド監督も積極的に取り組んでいますが、イーストウッド監督と本作とでは、題材への取り組みに違いがあり、その点でも興味深い作品です。

主人公三人は「FOXニュース」の女性キャスターとしての経歴を持っていますが、マーゴット・ロビー扮するケイラ・ポスピシルは幾つかの実在の人物を合わせた架空の人物です。

しかしマーゴット・ロビーの素晴らしい演技により、このケイラ・ポスピシルが本作の中で最も人間味を感じさせる登場人物となっています。ある重要な場面での彼女が受けた屈辱、心の痛みは、直接的に観客に伝わってきます。

冒頭で「FOXニュース」のオフィスビルの階の違いが、そのまま社員の序列を意味していることを分かりやすく視覚化しており、鑑賞の助けとなりました。加えて番組の位置づけや関係性についても何らかの説明があれば、シャーリーズ・セロン扮するメーガン・ケリーとニコール・キッドマン扮するグレッチェル・カールソンとの関係がより分かりやすくなったのではと思いました。

「FOXニュース」は米国では共和党寄りの、かなり保守色の強いテレビ局ですが、トランプが共和党の大統領候補となった当初は、共和党の方針すら攻撃するトランプを排除する方向で報道を行ってきました。ところがいよいよトランプが選挙戦で実力を付けてくると、「FOXニュース」の上層部は急に方向転換して、トランプを支援する報道を行うようになります。そのため、トランプ批判の先兵となっていたメーガン・ケリーは、言わばはしごを外された形になり、築き上げてきたキャリアが 危うくなります。こうした状況の中で、グレッチェル・カールソンが「FOXニュース」に君臨していた経営者、ロジャー・エイルズ(ジョン・リスゴー)をセクハラで訴えました。こうした経緯は作中でも描写されていますが、やはり事前に状況を把握しておかないと、物語の筋を追うことが難しくなるでしょう。

グレッチェル・カールソンは、裁判に当たってかなり入念に準備、証拠固めを行っていますが、これは裏返せば、権力のある上司をセクハラで訴えることがいかに難しいかということを示しているとも言えます。

実際のカールソンは、「FOXニュース」と和解する際に、秘密保持契約を結んだため、実際にどのようなことが起きたかは依然として明らかになっていないことが多いそうです。もしカールソンがありのままに話していれば、本作の内容も変わっていたかも知れません。

yui