「空気が読めるタイプの子供だった人には、懐かしい香りがする作品」ステップ ソビエト蓮舫さんの映画レビュー(感想・評価)
空気が読めるタイプの子供だった人には、懐かしい香りがする作品
突然母(妻)を失った、父子家庭の日常と日々の成長のお話。
まず、主要人物2人が良い。
白鳥玉季の「良い子を演じている子」を演じてるのと、
山田孝之の「黙っているだけ」で、心の機微の移り変わりを魅せる演技が凄かった。
白鳥は「極主夫道」でもそうだったように、ちょっとマセて大人びたガキをさせたら、
今日本で一番上手くて、可愛らしい子役だと思うが、
今作でも、父親に対して、父の心情を汲み取った上で、
良い子にふるまっているマセた子供を演じていて、見事だった。
一方、山田は、2024年の「正体」で、主人公を追いかける刑事を演じていたが、
上司の方針や指示と、自分の本心との溝に苦悩する刑事を、
「黙すること」で表現したように、今作は、子育てに奔走し疲れ切っている親父役で、
妻を亡くした直後の不安定な父親と、
子供がある程度成長し、手がかからなくなったが、苦労した分くたびれた感じの父親と、
同じ疲れきった感じの父親だが、加齢で安定してきた感じの父親の成長幅を、
やはり「寡黙」で「黙する姿」だけで見事に違いを演じているのは、見事だった。
山田の場合は、ちょうどこの2020年の「ステップ」辺りから、
ここ数年で黙するタイプの演技に、拍車がかかって凄味を増してきた印象があり、
昭和の俳優にも似た雰囲気を持つ、役者になった感がある。
ストーリーは、父子家庭のステレオタイプな「突然不幸が襲ってくる」展開で、
意外さや驚きは無かったが、父子の互いを思いやる心の機微を丁寧に描くことで、
鑑賞後は温かい気持ちになれる映画で、満足度は高かった。
また、個人的な話だが、私も子供の頃はどちらかというと、両親共働きで、
マセたタイプの子供であり、
幼少時は、知り合いのおばあさんの家で、親の仕事が終わるまで、
預かってもらい過ごす子供で、
大人の意図を汲み取る術には、処世術として長けており、
小学校の頃は、鍵っ子特有の思慮深い子供だったし、
経済的に裕福ではない事は、なんとなく感じていたので、
駄々をこねている同年代の子を見ると、見下す感じだったし、
やけに大人びた子供だったと記憶している。
空気を読んで、大人の手がかからない良い子を、演じていた自覚がある。
だから、この作品の子役を見てると、自分を見ている心地になり、
いや、もっとマセてたなぁと感慨深くもなった。
良かった演者
山田孝之
白鳥玉季