劇場公開日 2020年1月17日

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「監督の興をそそる要素は何なのか」リチャード・ジュエル うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0監督の興をそそる要素は何なのか

2024年6月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

この主人公をどうしても好きになれない。
正直者過ぎて損してるのは当たり前で、そこを強調するあまり、見ていてイライラする性格に描いてある。映画の作劇のトリックで、あえて犯人かどうか分からない演出なのかとも思ったが、実話の映画化なのでそれもなさそうだ。

サム・ロックウェル演じる弁護士が、もう少し主人公の行動にアシストを入れたり、したたかにマスコミと渡り合う描写があれば、かなり印象が変わったはずで、いい意味で「よくある法廷サスペンス」になったことだろう。巨匠イーストウッドは、敢えてその道を選ばなかったのか、じわりと訴えかける人間ドラマに仕上がっている。

『ハドソン川の奇跡』にテイストが似ている。事件(事故)が起き、英雄が祭り上げられ、マスコミに踊らされ、司法判断で決着する流れを、勝手に想像していたが違った。FBIが容疑者リストから外すというコメントで事態が鎮静化するという、なんとも消化不良の展開で、主人公を地獄に陥れた女記者も、FBIもなんの呵責もなく舞台を去って行く。
怒りの持って行き場所がない。だって作品の中では、誰も罰せられてないし、真犯人も姿を見せないままだから。

これこそイーストウッド映画だと言われればそれまでだけど、キャシー・ベイツの抑えた怒りと悲しみの演技は一見の価値あり。さすがの役者魂だ。

とにかく主人公の印象が悪すぎて後味が良くない。いっそのことコメディにすれば抱腹絶倒の出来上がりだったかも知れないなんて想像してしまった。実話だけに、それも厳しいかも知れないが『キャッチミー・イフ・ユー・キャン』なんて、ドタバタの追っかけっこの映画もれっきとした実話だ。主人公が往年のジョン・キャンディそっくりなのもあって、変な妄想を膨らませてしまった。

とにかく、あと何本撮れるのか分からないけど、実話を題材にした映画が続くイーストウッド。間違っても、カルロス・ゴーンだけは主人公にして欲しくない。

2020.1.21

うそつきかもめ