「手抜き捜査に手抜き報道、大衆迎合の怖さまざまざ・・」リチャード・ジュエル odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
手抜き捜査に手抜き報道、大衆迎合の怖さまざまざ・・
実話ネタが大好きなクリント・イーストウッド監督らしい直球勝負、宣材写真で主演のポール・ウォルター・ハウザーさんは実際のご本人とそっくりなので驚いた、もっともイーストウッド監督は「15時17分、パリ行き(2018)」では本人たちを使っているから、こだわり方は監督らしい。
確かに権力の横暴や怠慢、マスコミへの批判もよく分かる、本人は自分の職務を果たしただけといたって謙虚なのに英雄に祭り上げたかと思ったら舌の根の乾かぬ間に犯人に手のひら返し。地方紙どころか大新聞やCNNまで大衆迎合の浅はかさ、かっての記者もの映画にもなったジャーナリスト魂はもはやレガシーなのでしょうか。
もっとも今ではネットの誹謗中傷で自殺者まで出る世の中、劇中でも不可解なのはピエモンテ大学の学長がFBIに直訴するところ、良識ある教育者がやりこめられた腹いせのようでもあるが事実であれば由々しきこと。私見や風評だけで他人の人生を踏みにじる昨今の風潮に一石を投じています。
リチャードの実直すぎる生き方が今の世の中には不器用にも見える、弁護士ブライアントが素晴らしい、おそらく彼の助けが無かったら泣き寝入りになっていたかもしれません。
感動したのは無実を訴えるリチャードがFBIに向かって「私が恐れるのはこれから、もし警備員が不審物を見つけてもリチャード・ジュエルの二の舞にはなりたくないと黙ってしまうかもしれない・・・」と語るところ、実際に言ったかは解らないが素晴らしいセリフでしたね。
実直であることが不都合な人たちや笑いものにする人たちが主流を占める世の中では安全安心も危ういものになってしまうでしょう。
記者の枕営業は捏造だと新聞社が訴えたらしいが本人はうつ病の処方薬の過剰摂取で事件から5年後に亡くなっていますから真実は闇の中、FBIからのリークが無ければ記事は書けませんから特ネタを聞きだしたことは事実でしょう。ただ、マスコミを敵にまわしたことで映画興行は芳しくなかったようで残念です。
最初から白黒は明白に描かれますし、真犯人も逮捕されましたのでミステリー感はないのですが実話の重みで見入ってしまいました。