劇場公開日 2020年1月17日

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「今回はエンターテインメント寄り」リチャード・ジュエル キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0今回はエンターテインメント寄り

2020年1月19日
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優しさや誠実さや愛国心と背中合わせに存在する悪意や欺瞞や狂気。
クリント・イーストウッド監督作品はそんな一見相反する人間の心を、ゆったりとしたドラマで描いてみせる名手。

本作はそんな彼の監督作の中でもドラマチックでエンターテインメントに寄せてあるほうだろう。より多くの観客が堪能できる作品に仕上がっている。

この事件のことは知らなかったし、予備知識もまったく入れずに予告編さえ観ずに観賞した。

私達の周りにも「レーダー」の様な人物は存在する。
正義感が強く、正しいと思うと周りにどう見えようが行動せずにはいられない。それがモトで人間関係の中で敬遠されたり軋轢を産むことさえある。

正直、中盤辺りまで私は彼に感情移入できなかった。
「変わり者」「面倒くさいヤツ」「しゃしゃり出るなよ」「何様のつもり?」「言われたとおりにしろよ」
それどころか、(もちろん事件のシーンを観ているのに)私は「実はホントに彼がやった…ってことはないの?」とさえ。
まさにメディアやFBIがでっち上げた冤罪(だと知っていても)にノセられた人々の一人になっていた。

でも彼の誠実さがとても純粋な思いから発していることが分かって来ると、途端に彼が愛らしく見えてくる。

【ここから少しネタバレ】
ラスト、嫌疑が晴れた通知を受け取った彼は、それでも「これも彼らのやり方じゃないのか?」と、疑うことから逃れられずにいる。
私はここでグッと来てしまった。
当初、自分が疑われていることを感じながらも、アメリカへの忠誠心から全面的に捜査に協力しようとしていた彼。そして捜査官がそれを利用して「でっち上げた罪」を着せようとしていく中で、彼はついに自分の信じていたモノを疑うことを余儀なくされてしまった。

最後に彼が警察官になったシーンで少しホッとしたものの、自分が生きていく中で正義の礎であり心の拠り所であったモノを信じられなくなることの辛さはどんなものだろう。

そういう意味で、私はスクープ欲しさにウラも取らずに記事にしてメディアを先導したあの女性記者の責任は大きい(一番悪辣に感じる描かれ方をしてる)と思うのだが、その割に遅きに失したウラ取りの後、「母親の会見を見て涙」程度の改心では、とてもバランスが取れない様に感じてしまう。

まあ、この監督の作品はいつだってそんな単純な「勧善懲悪」を目指す物語ではないので、それも現実として受け止めるべきなのだろう。
ただ、ちょっとシンプルにカタが付き過ぎた感じを受けてしまったのは正直なところ。

とはいえ、相変わらずの素っ気なさと、本質を突く鋭利さ、そして温かく見守る慈愛を併せ持つ魅力的な映画に仕上がっている。

日本では事前プロモーションも少なく、観客動員も公開館も少ないのはもったいない。
ぜひ劇場へ。

キレンジャー