「史実を扱うまでもない浅さに閉口」リチャード・ジュエル Masuzohさんの映画レビュー(感想・評価)
史実を扱うまでもない浅さに閉口
クリント・イーストウッド監督最新作
期待して観に行きました
御年90歳ながら時事問題をつぶさに捉え
作品を通じてメッセージを発信していく
バイタリティには頭が下がります
グラン・トリノは非常に感動しました
今作の感想としては
悪くは無かったですが…
史実ベースであったとしても
なんとも捻りなくアッサリな作りで
拍子抜けな印象でした
物語はリチャード・ジュエル視点から始まり
元執行官ながらぽっちゃり体型の見た目ややたら拘りの強い性格で変わり者扱いされ
警備員等の職を転々とする様子が表現されていました
そして五輪の警備員任務中にひょんな事からイベントの公園で見つけた
リュック爆弾もマニュアル通りの連絡と誘導で対応しますが突然爆発
しかし死傷者は最小限度に留まりリチャードは一躍英雄となります
その場に居合わせたその地域管轄のFBI捜査官のショウはメンツを潰され
ほとんど腹いせに第一発見者リチャードを犯人に仕立て上げようとします
イチャついてる女性記者にもリークしリチャードは一転容疑者です
…つまり映画観てる側はリチャードが犯人じゃない様をすでに
見ていますからどうやってデッチあげるのかという描写に当然注目がいきますが
そこが非常にアッサリというか稚拙でウソの要件でビデオや電話で
自白とおぼしき言質を取ろうとするサルでも判るデッチあげ
ぽっちゃり風貌からショウらがナメてかかった部分もあったのでしょうが
さすがにリチャードは知り合いの弁護士を呼びます
その弁護士ワトソンはリチャードの変わり者で誤解されやすいが
観察力に優れ悪気のない性格をよく知っているため面談によって
リチャードの無実を証明する決意を固めますが…
でもご存じの通りデッチ上げレベルの話なのでいらん事喋るな
くらいの事しか言えない
現場から犯行予告した公衆電話の場所まで時間内にたどり着けない
事を調べて犯人じゃないという確信を持つくらいです
それくらいしかない
つまり予告などで全国民が敵になったとか煽ってましたが
あまりに事件の概要がショボくしか見えてこずどうにも話が
盛り上がってこないのです
女性記者も最初はワトソンの抗議にFBIから聞いたと
イキのいい所を見せていましたが自分で調べてみろと言われ
同じように公衆電話までの時間を測ってアッサリ無実だと認めてしまいます
はぁ?なんだおまえと流石に思ってしまいました
さすがにキャラ自体の深みがなくなってしまってます
最後はリチャードがワトソンとFBIに乗り込み
まだデッチ上げを図るクズ捜査官どもの前で「証拠はあるのか」と
聞いたらFBIは何も言い返せず席を立っておしまい
…それだけ??
でもそれだけなんですよねやってないんだから
家から爆弾の材料も何も見つかるわけない
そういうのは客もうわかっているのでそりゃ拍子抜けします
メッセージ性は確かにあります
冤罪で押し込んでる間に真犯人が次の悪事を働いたら
冤罪を恐れて自分のように爆弾処理をしようとしない人が増えたら
クリント・イーストウッド監督が伝えたいのはそういうとこ
なんだろうとは思いました
熱を入れて見られないのは
日本ではちょうどアトランタ五輪のこの事件の前に
松本サリン事件という非常に類似した事件の記憶が
あるもの関わっているかもしれません
被害に巻き込まれた夫婦が悲劇の渦中から一転容疑者に
仕立て上げられ連日ワイドショーが騒ぎ立てました
あれ知ってると今作の描写は正直ヌルいです
マスコミは「事実の公表」はしたがりますが
「真実」に更々興味はありません
だから個々に情報の選別をきちんとしていかなければ
ならない事や正義や悪を追い求めるとすぐ騙される事も
頭に置いておかねばならない事が教訓になるなら
こんなデッチあげ冤罪事件にすぎなかったテーマの映画も
意味を持つと思います
そうしたメディアリンチや冤罪に焦点を当てるべく
シンプルに扱ったのかもしれませんけど
映画的にはちょっと女性記者の性格が変わりすぎてる感じも
しましたし演技指導が一辺倒だったんじゃないかなあと
思うところでしたがサム・ロックウェルやキャシー・ベイツ
主人公のポール・ウォルター・ハウザーの演技は上々でした
クリント・イーストウッド監督らしい静かな終わり方など
定番の仕上がりですのでお暇ならと思いました