劇場公開日 2020年1月17日

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「全てが詰まった完璧な映画!」リチャード・ジュエル shironさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0全てが詰まった完璧な映画!

2020年1月12日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

主人公リチャード・ジュエルのヤバイ感じが絶妙。
仕事熱心なのはわかるけど、やや行き過ぎの感が否めない。
悪い人じゃないかもしれないけど、思い込みが激しく、人との距離感が上手く取れていないような…
会話が微妙に噛み合っていないような部分も怖いし…
「正しい」を振りかざして人を従わせる事で、鬱憤を晴らしている風にも見える。
趣味も普通にヤバイしww
この危ういバランスが本当に素晴らしい!

プロフェッショナルな英雄が不当に糾弾される姿は『ハドソン川の奇跡』でも描かれていましたが、危うい人物のグレーゾーンを描く事で、冤罪と戦う物語だけに留まらないテーマが広がっていました。
家族の愛、信頼、友情などの人間の普遍的なテーマはもちろん、社会的なテーマも鋭く、さすがはクリント・イーストウッド監督!
FBIとメディアに噛み付く90才!!
過去の出来事を描きながら、現代社会に物申す!
多様性の受け入れが問われる世の中ですが、そもそも一人の人間の中にもいくつもの顔がある事に気づかされ、
わかりやすいレッテルを貼るメディアの罪深さ、
わかりやすさに飛びつく大衆(←私を含めて)の罪深さも浮き彫りになっていました。

今やメディアは個人の「つぶやき」がニュースとして成り立つレベルだし
裏も取らずに視聴率や部数欲しさにネタに飛びつくなんて、「いいね」欲しさに噂レベルや憶測のゴシップを垂れ流している個人と何ら変わらない。
不確かな報道によって、傷つく人や人生を狂わされる人が生まれる事への責任の無さ。
情報を受け取る我々も、ネットニュースやワイドショーを鵜呑みにしているようでは同罪で、報道とエンタメの線引きをきちんと持たなければいけない。
さすがに「新聞」はそれらとは一線を画している「報道」だと信じていましたが、本作は新聞の先走り報道が全ての始まりでショックでした。
下世話なゴシップ要素も相まって、メディアの報道合戦が物凄いスピードで加速してゆく様は、見えないモンスターが巨大化していくようで恐ろしかった。
FBIの強引さも、報道の影響を受けていると思えるし。
「報道とは?」メディアのモラルに苦言を呈する作品でした。

でも、クリント・イーストウッド監督が本物の巨匠だと思えるのは、そこかしこに散りばめられたユーモア!!これに尽きます。
ゴリゴリ問題提起を押し付けるのではなく、サラリとしなやかに描いているところが、本当にすごい。
クリント・イーストウッド監督の豊かな人間性と、人を見つめる深い眼差しを感じました。

監督の手にかかると、主人公のグレーゾーンも、人間味あふれる感情に思えます。
怒りを表に出さないのは、何も感じていない訳ではなく、人々の言葉に傷つき、不当な扱いに対しては怒りを抱えている。
ヤバイ趣味も、その怒りやストレスの捌け口だろうし、そう考えると社会の闇を表した人物とも言えます。
でも、自分を卑下することなく、自分は自分だと言える自信や強さは、良くも悪くも母親の愛を受けているからでしょうね。

もちろん、母親役のキャシー・ベイツには泣かされましたとも!!(T-T)
スピーチのシーンだけでも見る価値あり!
いくつになっても母親は、息子を守りたいと願っているものなんだなぁ。
クリント・イーストウッド監督の映画は、立ち姿や佇まいで物語るシーンが印象的で、役者に芝居をさせないイメージでしたが、珍しくガッツリ芝居させているのも驚きでした。

『ジョジョ・ラビット』に続き、サム・ロックウェルのやさぐれ弁護士が良い!!
リチャードとは別のグレーゾーンを感じる役どころで、組織に馴染めない感じがリチャードとの距離を縮めたのかもしれません。
二人の関係の変化も見どころ。

無駄が一切ない完璧な映画でした。

shiron