劇場公開日 2021年2月11日

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「「私」を愛してくれる人、を求めてる」ファーストラヴ つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「私」を愛してくれる人、を求めてる

2025年4月8日
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鑑賞方法:映画館

観る前から結構期待してたんだけど、期待通りの面白さ。まあ、女子映画であることは認めよう。この映画に共感しない女性はいないんじゃないかな。
表面的なストーリーだけ追うと「特別な父娘の特別な関係性」の話、としか思えないだろうけど、随所に他人事ではない恐ろしさがある。

女性なら誰でも理不尽な恐怖の餌食になったことがある。直接的な被害に遭わなくても、降ってわいた災難に立ち竦んだ経験がある。
どんなに強そうに見えても、どんなにあっけらかんとしていても、ある。
「性的対象として見られたくないときに性的対象として扱われる」恐ろしさ。生物学的に女だから、という理由でオンもオフも関係なく「そこらへんの女」として扱われる。
「私」が「私」という自我から切り離され、肉体に付随する記号として扱われる時、理不尽大王は降臨する。
大王との遭遇がいかにクソゲーかは、遭遇した人にしかわからないだろうな。突然酔っぱらいのオッサンに女性器の名称を連呼される理不尽など、呆然と立ち竦む以外に何が出来るのか(実話です)。

程度の差があるから、普段はすっかり忘れている人(私だ)もいるし、毎日不安に苛まれる人もいる。この映画に登場する由紀と環菜は、不安を抱えて生きている。

以前何かで読んだけど、自己肯定感の低い人は「自分のことを好きと言ってくれる人」をキモチワルイと感じるらしい。こんな最悪の自分を好きになるなんて、こいつはオカシイんじゃなかろうか?という思いが「好意を寄せてくれた人」に向かうらしいのだ。
環菜にもこの感覚は当てはまる気がする。大学時代の恋人と「我慢してつきあっている」という発言がモロだ。環菜にとっては、自分を助けてくれる王子様→体を求めてくる下衆→違う王子様探し…という不幸の連鎖が起こっていたように思う。

由紀も環菜も、父親から直接的な暴行を受けたという描写はない。しかし、「女という記号で見られる恐怖」は彼女たちの心を確実に蝕んでいる。
同じ苦しみを抱える由紀と環菜。
だからある意味この物語はシスターフッド的な連帯と、互いの姿に自分を重ねることで立ち上がる解放の物語なんだと思う。

では男性陣はどうか、というととにかく由紀の夫・我聞が「悟り」の境地みたいなところに到達しちゃってるパーフェクト・ハズバンドである。「ビリーブ未来への大逆転」のレビューにおいて、アーミー・ハマー演じる主人公の夫に「世界に一つだけの理想の夫」という称賛を送ったが、窪塚洋介だって負けてはいない。
寛容さ・懐の深さに関しては我聞の方が圧倒的に「理想の男」かもしれん。

我聞の弟であり弁護士の迦葉は、兄に比べると若干オレ様系だがイケメン・イケボのハイスペ男子でこれまたある種の「理想の男」である。
で、なんで「迦葉」なんていう突飛な名前にしたのかなぁ、なんていうことが気になって調べてみたら、「我聞」も「迦葉」も仏教由来なんだね。
「我聞」は釈尊の説法を聞いたところ、という意味。「迦葉」は釈尊の三番弟子で拈華微笑(言葉にしなくても心が通じる様)の由来となる人物。
由紀にとっては「話したくないけど察してほしい」時期の恋人が迦葉で、「勇気をふりしぼって苦しみを告白する」相手が我聞だったんだなぁ、と妙に納得。
まあ、女側の勝手な都合ですけどね。

ともあれ、由紀の心の整理がついたことで、環菜の苦しみを由紀が引き受けられるようになったことが、環菜の心の解放、言い出せなかった本当の気持ちに繋がっていくのは素晴らしい流れだったと思う。

由紀を演じた北川景子は、本作でキャリア最高の演技を見せたと言って良いと思う。このまま演技派への道を突き進んで欲しい。結構本気で応援してる。
環菜役の芳根京子は鳥肌が立つほど良かった。由紀との接見シーンも良いけど、裁判のシーンは更に凄い。今まさに「環菜の心に触れている」と感じた名シーンだった。

登場人物一人一人がしっかり描かれていて、好きなタイプの映画なんだけど、ちょっと説明過多なのが玉に瑕。何もかもちゃんと説明され過ぎちゃうせいで、余韻がないところだけが残念だったな。

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つとみ
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