「コメディとしてよく完成されている」お終活 熟春!人生、百年時代の過ごし方 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
コメディとしてよく完成されている
人間はいくつになっても成長する。有名な論語の為政編には、60歳は耳順と言って人の言うことに耳を傾ける歳だと書かれている。それは他人の意見を聞いて自分の世界を豊かに広げることだ。
しかし現実はそうでもない。脳内伝達物質であるセロトニンの分泌は25歳がピークである。セロトニンは神経の短絡を抑制する働きがある。つまり人生で一番キレにくいのが25歳という訳だ。それ以降は分泌量が減っていく。歳を取るとキレやすくなるのだ。他人の意見を聞くどころではない。頑迷固陋な老人になって、気に食わないことがあると文句ばかり言う。街で弱い立場の店員に怒鳴り散らしているおじいちゃんをたまに見かけるが、見栄えがよろしくないことこの上ない。
本作品で橋爪功が演じた大原真一がまさにそのような困った老人であった。しかしある出来事を機に死や生に対する考え方が変わっていく。来し方を振り返り行く末を案じれば、人生の真実が朧げに浮かび上がる。
水野勝と剛力彩芽の若者二人が人間が出来ていて、年寄りたちが狭量で自分勝手という対比がいい。わかりやすいから笑える場面では思い切り笑える。数少ない伏線だが、回収の仕方が斬新で、少し驚いてしまった。
コメディとしてよく完成されている。役者陣の演技もとてもよくて、特に狂言回しの松下由樹の演技が見事である。鑑賞後はとても爽やかな気分だった。それにしても、人間は社会や金融機関やインターネットで沢山の結びつきがあるのだと改めて気づかされた。死んだら遺族がやることが山ほどあることに、思わず溜め息が出た。
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