「人間に潜む闇」テッド・バンディ しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
人間に潜む闇
バイオレンスや流血が苦手なので、殺人者ものはあまり見ないのだが、暴力シーン少なめとのレビューを拝見してチャレンジ。
成る程、大半が法廷劇や心理描写で、衝撃映像控えめ。サイコホラー的な怖さはあれど、ビビり過ぎずにに鑑賞できた。
エンディングで実際のTV映像が流れるが、台詞の一致に驚かされる。現実が虚構に負けず劣らず芝居掛かっているのだ。鼻白む位に。
映画はその現実を切り取り、一部を見せ、一部は見せず、一部は創作を加え、この作品ならではの物語を描き出していく。
テッドは一貫して罪を否定する。確定的な犯罪シーンは描写されない。観客は、他に多くの女性関係を持つテッドの不誠実さや、脱走などの怪しげな挙動を垣間見せられて、じわじわと不信を募らせていくが、確信は得られない。恋人のリズは、子供にも愛情深く、優しく接してくれたテッドの姿しか思い描けず、テッドの言葉に翻弄され、愛と疑いと後悔の間で最後まで揺れ動く。
殺人の動機やテッドの内面についても、ほとんど言及されない。答えを極力排除したまま、ラストシーンに至って唯一、この映画は答えらしきものを差し出して見せる。
犯行を否定し続けるテッドに対し、「10年間苦しんだ。解放して!」と真実を求め慟哭するリズ。「信じて欲しかった」と涙しながら、指でガラスに記した終なる自供は、リズを葛藤から解放するものか。
30人以上を快楽殺人したとされるシリアルキラー。悪魔なのか、異常者なのか。殺されなかった女に向ける、それがある種の愛情なのだとしたら。人間性の欠如と愛が同居し得るとしたら。陰惨極まる殺人が、人外の悪魔でなく、ただの人間の所業なのだとしたら。
「今や殺人者は草むらに潜むものではない。隣にいる人が、愛する人が、ある日突然豹変するかも知れない」
エンドロールでのモノローグ。それが、この映画が観客に覗き込ませたかった、人間に潜む暗い深淵の姿なのだろう。
テッドに関する同監督のドキュメンタリーが、Netflixで公開されているらしい。同じ作り手の描く同じ題材のドキュメンタリーと創作。興味深いが、私自宅では動画とかほとんど見ないからなぁ。Netflix、悩ましいところ。