「言い知れぬ不気味さ」テッド・バンディ 頼金鳥雄さんの映画レビュー(感想・評価)
言い知れぬ不気味さ
「たった1人だけ殺されなかった女」といった予告に心惹かれて鑑賞しました。テッド・バンディの元婚約者のリズ視点のお話で、過去に世界仰天ニュースのような再現ドラマを見たことのある人には物足らない内容かもしれません。再現ドラマの方がバンディの生育歴、犠牲者を誘い込む手口、殺人方法、遺体の遺棄方法などは詳しいでしょう。
残酷なシーンは少なく、直接的な手を下す場面もありません。でも女性の私にはとても重苦しい映画でした。「自分がシングルマザーだったら?」「優しくて頭が良くてハンサムな男性と出合ったら?」「そんな彼が連れ子共々受け入れてくれたとしたら?」「自分と子どもを殺そうと思ったことはあったのか?」などなど考えてしまいました。
60年代の終わりから70年代という時代背景を考えると殊更リズの葛藤に共感できます。連れ子のモリーはバンディを大変慕っています。バンディも抱っこして遊んであげたりかわいがっています。(あとでゾッとするのですけど。)彼女が葛藤とストレスからアルコール依存症になってしまったような描写がありますが、無理もないと思います。マスコミが彼女を突き止めて追い回すようなこともあったでしょう。この映画ではそういったシーンはありませんが、わざと描写しなかったのでしょうか。
職場の解雇も心配でした。最初のうちリズは裁判を傍聴していますが、バンディを信じられなくなってからは傍聴しなくなるし電話にも出なくなります。でも心の中では彼との幸せな生活を夢見て諦められない。優しかった彼を忘れられない。だからお酒に逃げる。同僚が彼女を受け入れてくれたのはまだしも救われました。
リズも通報した1人ですが、その理由が「似顔絵が似ていて犯人と同じ車に乗っているから」なのです。それだけの理由で通報だと弱くないかなぁ、テッド・バンディの持ち物に殺人セットを見つけて怖くなったというようなエピソードもあったはず。入れた方が良かったのでは?と思いました。でもそれだと逆に安っぽくなるのかな。
当時バンディを追っかけて裁判を傍聴したりファンレターを送った少女たち。彼女たちが当時の自分をどう思っているか気になります。彼女たちも母になり祖母になっているでしょうから。あとから映画のことをネットで調べました。監督さんからテッド・バンディを知らない世代に向けてのメッセージとしての意味合いもあるそうです。「なるほど、だからこういう作りにしたのか」と思いました。
「どうしてリズだけ殺さなかったのか」この理由は結局わからなかったし、何度も見たいとは思わないのでこの評価にしました。