「王道のラブストーリー」きみの瞳(め)が問いかけている 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
王道のラブストーリー
ヒロインの牽引力が終始物語をリードする作品である。それほど本作品の吉高由里子の演技は凄かった。主人公の柏木明香里が白杖を突きながらニコニコと笑顔で登場する場面では、笑顔とは逆に内に抱える大きな悲しみを感じさせた。
というのも、人間はあまりに大きな不幸に見舞われたとき、何故か笑顔になる。東日本大震災のときのテレビのインタビューで、被災者が笑って答えている映像を目にした人は多いと思う。決して楽しい訳じゃない。笑うことで自分の脳に自分は大丈夫だと思い込ませ、無意識が自暴自棄の感情を生まないようにコントロールしているのだ。
身に起きた不幸を笑顔で話す人は結構多い。それも同じ理由である。風吹ジュンが演じたシスターが「笑顔を忘れないで」と言うのも同じ理由だ。横浜流星が演じた篠崎塁は、明香里との触れ合いによって笑顔を取り戻すことで、過去の不幸から救われるきっかけを得る。
愛を育む過程でふたりの過去が少しずつ明らかになり、それぞれに衝撃を受けながらも乗り越えていくことで、愛はますます深まる。これまで持てなかった自己肯定感を抱けるようにもなる。この辺りの幸せな雰囲気に少しだけホッとするが、過去のツケが容赦なくふたりを待っていることは分かっている。
横浜流星はテレビドラマ「シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う」でしか見たことがなかったが、なかなか憂いのあるいい表情をする。次は陰のない野放図に明るい役を見てみたい。
やべきょうすけが演じたジムのトレーナーが大変に需要な役割を果たす。剽軽で男の優しさに溢れ、ストーリー上では人間関係の緩衝材となって物語の隙間を埋める。こういうコミカルな熱血漢がよく似合う役者さんなのだろう。とても好感が持てた。
出会いからラストシーンまで、物語が進むにつれて主人公ふたりの関係性がどんどん変わっていくのがラブストーリーとしての王道を踏まえていて、非常に面白い。兎にも角にも吉高由里子の演技が光る作品であった。