「ドイツの映画館で鑑賞。佳作ではあるが日本映画史に残るほどの傑作ではない。」劇場版「鬼滅の刃」無限列車編 431 antonさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5ドイツの映画館で鑑賞。佳作ではあるが日本映画史に残るほどの傑作ではない。

2021年6月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ドイツにて劇場公開が始まったため、オリジナル日本語音声+ドイツ語字幕で鑑賞。21時からの開演で、100人程度のホールに20人程度の客入り。エンドロールでLiSAの炎が流れるが、歌詞が丁寧にドイツ語訳されていたので嬉しくなった。

原作漫画は最終巻まで読了。最後の煉獄さんの戦いと、それに続く炭治郎の悔しさを吐露する場面では涙が出るほど感動した。

【良かった点】
・すぐれた映像美。特に、最終決戦で繰り広げられる炎の呼吸と術式展開の戦いは圧倒的。列車全体を覆う触手のような敵は、少し安っぽいCG描写で残念だったが、その他のアニメ描写は総じてとても高いクオリティ。
・声優陣の演技はすばらしい。特に猗窩座役の石田彰さんは流石の演技力。また、主人公役の花江夏樹さんは飼い猫が亡くなってしまったのかと思うくらい泣く演技が上手い。ただストーリー展開のテンポが悪いので、全体的に少しくどい印象もある。

【悪かった点】
・ストーリー展開のテンポがとにかく悪い。特に前半~中盤の厭夢戦は、過剰な説明口調と緩慢なカメラワークによって、戦いの進展が非常に遅く感じる。原作に忠実すぎる再現も時として問題になるのだなと実感。
・盛り上がる場面が多すぎる。最後の煉獄さんvs猗窩座が最も緊迫感あるシーンだと思うが、その前にも大げさな音楽でそこそこに盛り上げられた山場をたくさん作っているので、徐々に緊張感が高まっていく雰囲気がなく、途中で疲れてくる。
・音楽が大げさでうるさすぎる。とってつけたような合唱曲をBGMとして流すのは安っぽい印象を受けるので極力控えるべきだと思う。とはいえLiSAの炎はシンプルだがとてもいい曲。
・セリフ回しに同じ言葉の繰り返しが多く、芸がない。特に「200人の乗客」と「精神の核」はあまりにも繰り返し発話されるので、何度も聞いていると強い違和感を覚える。
・説明セリフが多すぎる。状況や個人の感情に関する説明が過剰なため、話が小気味よく展開してくれない。原作漫画はこれにナレーションが加わるので、それを削除したことは英断だと思うが、説明口調も思い切ってばっさり削除しても良かったのでは。
・登場人物の独白(モノローグ)が多すぎる。説明セリフと並んで展開のテンポを悪くする主因。
・ギャグ場面が不自然。時折差し込まれるギャグは、漫画を読んでいる際には問題ないと感じたが、映画の中に突然挿入されると不自然極まりない。うすら寒い笑いを入れるくらいなら思い切って削除すべきだった。

結論として、すぐれた映像美と声優の演技を楽しめる佳作だが、千と千尋の神隠しを超えるほどの傑作とは到底思えなかった。もともと漫画の一章を切り取って映画化すること自体が困難なので、仕方がないことなのかもしれない。原作ファンに配慮して漫画の展開を忠実に再現しようとするあまり、映画としての制約を考慮できていない印象を受けた。一本の映画というより、3~4話分のアニメを見た感覚。

また、すでに原作を読んで話の展開を把握していたので、最後の煉獄さんの悲劇的結末と炭次郎の悲しみに原作ほど強く心を揺さぶられることはなかった。原作を読んでいない人からすると、このような結末は予想外の展開で、驚きと相まってより感動できるのかもしれない。

431 anton