「(アガサ・クリスティの)ミステリーファンにはスッキリしない出来。その観点からネタバレしてますので未鑑賞の方は読まないでください。」ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密 もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
(アガサ・クリスティの)ミステリーファンにはスッキリしない出来。その観点からネタバレしてますので未鑑賞の方は読まないでください。
スター・ウォーズ(というかスカイウォーカー・サガ)をメチャクチャにしてくれたライアン・ジョンソンが、皮肉にもアガサ・クリスティの大ファンだということでアガサへのオマージュで作った映画らしいが、ある意味似て非なるものになっている。①オマージュ又はパロディの部分は確かに散見される。しかしそれが映画の面白さに繋がっていない。②アガサの作品で起こるのは全て殺人であり、この映画のように自殺ものはない。先ず、そこがこの映画のスッキリしない要因で弱点である。③実はアガサの作品には(特に全盛期には)大富豪が謎の死を遂げる、一族が全て容疑者、アッとビックリな遺言書、という作品はそんなに多くない(代表作と言われるものの中にもない)。上の条件にぴったり合っているのは「ねじれた家」くらい。④マルタが嘘をつくと吐いてしまうという設定はユニークだが上手く活かされているとはいえない。⑤探偵がマルタをワトソン役にするのはアガサの某代表作のパロディだろうが、マルタの回想のシーンで真相の半分が既に解ってしまった後なので、映画的に探偵がマルタを疑って助手扱いするとは思えず、却ってマルタを容疑者から外してしまい、設定が生きて来ない。まだ、遺言書が読まれてからにした方が良かったように思う。⑥会話の切れ端や、登場人物のちょっとした一言に伏線や手掛かりが隠されているのはアガサが良く使う手ではあるが、自分のペースで読み込めたり前のページに戻ることが出来る小説と違って、ストーリーが目の前でどんどん流れていく映画には、その手法が決して合っているようには思えない。⑦ダニエル・クレイグの探偵はポワロ(外見があまりに違うが)他色んな名探偵のパロディだろうけれど、パロディの域を出ておらず、この探偵自信の個性が出ていない(観客が感情移入できない)。⑧家族の面々の人物造型が薄っぺらい(アガサの小説のキャラクターも紙人形、類型的とよく揶揄されるが、ここではもっと酷い)。⑨事件の様相は一見複雑だが、結局犯人は行き当たりばったりで犯行に及んだだけの事件なので(クリス・エヴァンスが演じることで更に頭悪く見える)、それを解くダニエル・クレイグの探偵もそれほど名探偵に見えない。⑩犯人が綿密に仕組んだ犯罪を探偵が明快に解き明かしてスッキリさせてくれるカタルシスがない。今の時代らしい?くだらない。⑪「欺しの天才」のアガサの良くできた作品を読んだときの『よくも騙したてくれたな、降参だ』という読後感に相当するものが感じ取れなかった。ということで余り高く評価できないけれども、アナ・デ・アルマスが可愛いのでその分点数を嵩あげしてあります。