劇場公開日 2021年1月29日

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「土の香りがする作品」わたしの叔父さん 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0土の香りがする作品

2021年3月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 肉親の存在だけが唯一の生きる拠り所というのはなんとも淋しい限りだ。しかしそれは傍から見た他人の勝手な言い草である。人生に何が大切なのか、本人にしか決められない。
 本作品の主人公クリスは、おそらくただひとりの肉親である叔父さんと農場で暮らしている。牛の世話と牛舎の維持に追われる日々は、単調に見えるかもしれないが、微妙な変化に富んでいる。時には新たな命が生まれ希望が増える。変化は確実な時の流れを感じさせる。年老いていく叔父さんを見て、過ぎていく自分の時間を振り返る。自分の将来、自分の恋愛。クリスはつらい思いをした。男は皆いなくなるだけだ。種付けしたいならするがいい。
 自分自身が年老いていく前に可能性を考える。首都コペンハーゲンでの時間。それは農場だけではなく叔父さんからも離れた時間だ。クリスの選択。都会での根無し草の生活よりも、他からは頼りなく単調に見えるかもしれないが、叔父さんと農場で生きる。少なくとも叔父さんは自分からいなくなったりしない。
 牛の鳴き声が聞こえ、牧草の青臭さと牛のフンのムッとする臭いが漂ってきそうだ。大地に根ざした人生。土の香りがする作品である。

耶馬英彦