「リアルすぎて苦しい。」さよならテレビ 九段等持さんの映画レビュー(感想・評価)
リアルすぎて苦しい。
笑う観客に嫌悪感を覚えたのは、私が少なからずあちら側の人間だったからでしょう。
その立場から見て、しばらく考えたくなくなるほどにリアルでした。
理想と現実の間で葛藤するベテラン契約記者。
トラウマを抱えつつ仕事に向き合うも、結局切られてしまうアナウンサー。
愛されキャラだが、明らかに能力が足りない派遣記者。
見ていて、苦しくなりました。
特に、最後に挙げた派遣記者が原稿の間違いを指摘されるシーン。
原稿上のふりがな誤記なので一義的には記者が悪いのですが、ああいういかにも危なそうなものを、キャスターが下読み時から確認も疑問も上げず読めてしまう意味がわかりません。
また、放送に出す以上デスクや編集長にも事前に防げたタイミングはあったはずなのに、放送後になって一方的に叱られ叩かれ…。
私の観た回では、しょうもないミスを繰り返す派遣記者に声を上げて笑っている人が多くいましたが、私にはシステムや組織体質に問題があるとしか思えませんでした。
普通に見たら笑えるシーンなのはわかるだけに、辛かった。
こうした場面でもすぐ横にいるのに我関せずで他の話を続ける女性スタッフや(絶対聞き耳は立てている)、副調でモニター越しに出演者を好き勝手批評するTKなど、すべてのシーンにリアルなテレビ局の姿がありました。
最後の展開にも賛否あるかと思いますが、あれもテレビの現実かと思いました。
「こうすればより面白くなる、伝わりやすくなる」と言われれば、それに従ってしまう。正しいと信じてしまう。
「リアルを追うドキュメンタリーだ」と理解していても抗えないのが、テレビマンの本能なのです。
東海テレビはキー局ではないですが、純粋なローカル局でもありません。
また民放の中では老舗で、伝統や会社組織の面でNHKに近い部分もある会社です。
その意味で、この作品で描かれているものは、ちょうど今のテレビと言えると感じます。
テレビの凋落が叫ばれて久しいですが、それでもこれを世に出せ、まだ見てくれる人がいる訳です。
今こそ、テレビはどうあるべきなのか、関係者と世の中が本気で考えるきっかけになればと思います。