ハスラーズ : 映画評論・批評
2020年1月28日更新
2020年2月7日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
50歳J.Loの半裸ダンスに釘付け! 実録犯罪ドラマは女の友情映画として心に刺さる
舞台はリーマンショック前後、ニューヨークのストリップクラブ。ウォール街のスーツ男たちから金を巻き上げようと、欲望のダンスを踊り続けた女たちのクライム・ストーリー。雑誌に載った実録記事を、ローリーン・スカファリアが脚色・監督した野心作だ。チームを組んだ女たちが「オーシャンズ8」よろしく痛快にやってくれるのかと思えば、さにあらず。もっとリアルでえげつなくて人間臭く、しかもパワフルかつエモーショナルで面白い!
幕開けは、いろいろな意味で象徴的。ジャネット・ジャクソンの「Control」を背景に、クラブの奥へと入っていくアジア系の新入りストリッパー、デスティニーを追うカメラは否応なしに「グッドフェローズ」を思わせる。そして、運命の出会いだ。クラブのステージでエロくも美しいポールダンスを踊るラモーナに、観客だって息を飲み、衝撃を受けるだろう。これが、御年50になろうというJ.Lo(ジェニファー・ロペス)なのだ! 半裸のまま屋上に出たデスティニーを、毛皮のコートを広げて「入りな」と迎え入れ、温めてくれるラモーナは、まるでひな鳥を抱く親鳥だ。
必要なことをすべて教え、家族のように支え、悪いことにも巻き込むことになる、カリスマ的姐御ラモーナ。バブルがはじけ、再びどん底を味わった後で、女たちはこの親鳥の下に身を寄せて疑似姉妹になる。そして相変わらずリッチな金融マン相手に汚い犯罪をエスカレートさせていくのだ。けしからん金持ちから金を巻き上げる彼女たちを、映画は正義のロビン・フッドには見せない。ただ、女たちを取り巻く世界のシビアさをこれでもかと描き、彼女たちを簡単にはジャッジさせない……どころか、#MeToo運動後の世界に共感と同情を呼びまくるのである。ここにあるのは女(しかも有色人種)であるがゆえの楽しさ、哀しみ、悔しさ、強さ、生きづらさ……。「グッドフェローズ」のギャングたちは、自分が男であることをこんなに噛みしめることはなかったはずだ。
そしてもちろん、女の友情(シスターフッド)映画としての素晴らしさは、特筆に値する。なぜか女の友情というのは男の友情ほど単純に「女が女に惚れた」だけでは終わらず、嫉妬や憎しみで濁りがちなのだ、とくに映画では。しかしこの作品はめずらしく、びっくりするほど純粋なラブストーリーになっている! 回想の中でキラキラと輝く幸せな記憶は「男の友情」映画のように直球で刺さるし、ラストのJ.Loはきっと甘やかな痛みと懐かしさを誘うだろう。かつて仲がよかったのにすっかり疎遠になってしまったあの旧友のように。
(若林ゆり)
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