「あふれる涙を止められない 胸が苦しいのに心はあたたかい、誰もが必見の傑作」フェアウェル くちなし(映画.com編集部)さんの映画レビュー(感想・評価)
あふれる涙を止められない 胸が苦しいのに心はあたたかい、誰もが必見の傑作
6年前のある日の深夜、ふとラジオからこんな言葉が聞こえてきた。「あなたはあと何回、家族に会えますか?」。仕事の手を止めて、ひたすら泣いたのを覚えているます。
進学のために親元を離れ、就職のために東京で暮らすことを決め、若い志と希望だけで邁進できた時期を少し過ぎた当時の私には、刺さり過ぎるフレーズでした。そして本作を見たとき、同じように涙があふれました。
生まれも育ちも日本の私が、どうしてこんなにビリーに共感するのか不思議でしたが、2つのことに気が付きました。1つは、親族が集まった中国で、ビリーが「孫」「娘」「遠くに住む姪」「ひとりの女性」としての顔を無意識に使い分けていたこと。
寡黙すぎる父、平気でナイナイの愚痴を言う母、クセの強いおばたち、そして労わるべき存在となった祖母。家族が集まれば、面倒な揉めごとも起こります。私もビリーと同じように、いつの間にか庇護者だった家族たちとの関係が変化し、“大人としての関係”を築いていると感じていました。
そしてもう1つは、そんなビリーとナイナイの関係が、ナイナイの“死”を目前に巻き戻ったように見えたことです。ビリーだけではなく、父はただの息子のように、母はその恋人のように見えました。そして小さな子どものように泣いたビリーの姿に、「その時がきたら、私もきっとこうなる」と思わされました。
私の祖母は、今年で86歳になります。本作を見終わったとき、「あと何回おばあちゃんに会えるだろう」と考えて、胸が苦しく、そしてなぜか心があたたかくなりました。この物語は、自分のなかに想像以上の家族愛を見つけられる、ルル・ワン監督からの贈り物なのだと思います。ぜひたくさんの人に受け取ってほしいです。