「分かり合えない孤独と、分かち合う狂気」ミッドサマー Anaphylaxisさんの映画レビュー(感想・評価)
分かり合えない孤独と、分かち合う狂気
暗い世界から、明るい世界へ
村へ向かう道中、カメラが宙返りするところから、すべてが反転した世界に入ったことを視覚的に体感出来る。
主人公の経験した家族との断絶、恋人との不調和。
そんなものとは無縁の世界がホルガ村だ。
ホルガ村では一般的にタブーとされるものが、あからさまに共有される。
生理、セックス、老いと死、殺人、近親交配、動物の解体。いわゆる「子どもは見るな」というものを子どもの頃から叩き込んで教条としている村。まるで夜も暮れない白夜のように、すべてが白日の下に晒されている村。
愛するものから断絶され、孤独に怯える主人公は、そんな村に徐々に取り込まれていく。
現実社会では最も信頼する者とすら分かり合えないのに、村では誰もが共鳴するように全てを分け合っている。
終盤、薬で麻痺したクリスチャンの視点で「クリスチャン、動かないで。あなたはそこでただ目を開けてみていて」というシーンが面白かった。名前も意図したものだろうし、さながら観客に直接、席から立つなと押さえつける演出。これはキリスト教社会では特に強烈なメッセージ性を持つのだろう。村が大切に祀っている聖典が、ただの落書きにしか見えないのも宗教への皮肉に思えて笑えた。
普段、分かり合えない孤独に苛まれているので、まんまと村の魅力にハマり、愚鈍で無作法な男たちに苛立ち、全てを分かち合えることにカタルシスを覚えた。
おそらく主人公はもう村を離れないだろう。首謀者の友人と、この経験を最も共有できる間柄として結ばれるかもしれない。そして年老いて死の儀式の時、石の舞台に家族の幻影を見て、やっと楽になれると思いながら飛び込むのかもしれない。
でも、そこに人としての原型はない。人は分かり合えない影があるからこそ、その輪郭を形成している。最初からすべてを理解し合おうとすることが間違いで、決定的なすれ違いを感じたら、怒りを溜め込むより、諦めて離れる必要性がある。
ストーリーに真新しさは感じなかったが、映像のメッセージ性は強烈だった。