「海外の酷評は修正前バージョンで日本は修正版である」キャッツ バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)
海外の酷評は修正前バージョンで日本は修正版である
舞台の「キャッツ」を観たことがある人なら、今回の映画版と舞台の大きな違いがすぐわかるであろう。舞台版ではナビゲートキャラクターであるマンカストラップの目線で描かれているのに対して映画版では、舞台版でほとんど存在感がないヴィクトリア目線の物語ということだ。
ヴィクトリアは、舞台版でもバレエシーンがあるキャラクターではあるが、ほんの数分である。それをヴィクトリア目線にしたことで、もともとキャラクター構造の薄いという点からアレンジしやいのと同時に全体的にダンスがいわゆるミュージカルダンスではなく、バレエダンスになっているのだ。
そのため、脇役となるバックダンサー猫たちもバレエダンサーが多数出演しており、ネコの動きが妙にしなやかにシンクロしている。デザインの問題もあるが、絶妙に気持ち悪い原因はそこにあったのだ。ただ…こう思ってほしい、ミュージカルとバレエを同時に楽しむことができるのだと。こんな豪華なことはない!!動きが気持ち悪いっていう人がいるけど...バレエ劇とか観たらあんな感じだと思うんだけど...
そして、ヴィクトリアというキャラクターは観客の投影、私たちの目線なのだ。舞台版は、マンカストラップが観客である私たちをキャッツの世界に導くように、ヴィクトリアはマンカストラップに導かれて、ジェリクルキャッツの世界を知るという仕組みだ。実に巧妙なキャラクター造形である。
バランスが難しいのは理解できる。『ライオン・キング』や『美女と野獣』は原作がディズニーアニメだから、CGキャラクターにしても問題ないが、「キャッツ」に関しては、原作が舞台なだけに正解がないのだ。 それをふまえても、デザインはもう少しどにかならなかったのかとは思う。
さすがに舞台版みたいに歌舞伎メイクみたいにしなくても、せめて鼻を黒くしたり、手を猫らしくしたり、唇を消したり、歯をキバにしたり、もっとモフモフにしたり...とできたはずだ。何より気になるのが手だ。手だけ肌色だったりするから、どうしても人間感が出てしまっているが…観ているとこの絶妙なまでの気持ち悪さがクセになる。
それでもヴィクトリアはフランチェスカ・ヘイワードが演じてることで、綺麗な顔立ちが違和感をあまり感じさせない。国宝級のバレエダンスを観れるだけでも素晴らしい。
他のキャラクターも観ていると慣れてはくる。キャラクターとして一番よかったのは、ミストフェリーズだ。なぜなら舞台版より全然可愛くなっている。 舞台版なんて白塗りでキラキラして、もっと気持ち悪い!!
この映画を観てストーリーがほとんど無いなんてことを言う人は舞台版を知らない人だ。そもそも「キャッツ」にストーリーは、ほとんどない!!
舞台版なんて単純に猫を紹介していくだけの話だ。しかし、映画版ではヴィクトリを目線にしたことでストーリー性が本来よりも追加されていると言っていいだろう。これでストーリーが無いなんて言うのだったら、そもそも「キャッツ」という作品が合わない。
舞台と違いも多くあって、曲やキャラクターの紹介がかなりカットされているが、みんなで踊るシーンにはちらりと映ったりして、舞台で活躍するキャラクター自体は登場はしているから、好きなキャラクターを探すのも楽しい。
個人的に好きな鉄道猫のスキンブルシャンクスやマンゴジェリー&ランペルティーザがカットされてなくてよかった。
キャラクター性としては、オールドデュトロノミーもオスからメスに変更されたりと、細かい点は変更されたりする。
唯一、ミュージカル映画として個人的に駄目なシーンがあるとすれば、エンドロールである。ミュージカル映画はエンドロールでキャラクター紹介が入るものが多いが、今作はそれがない。この映画こそキャラクターが多いのだから、しっかりやってほしかったところでこちらも期待していただけに残念だった。映画的に酷評されても、せめてミュージカル視点でのお約束は入れてほしいところだ。
わざわざ舞台版を観なくても1998年にリリースされた舞台を収録したDVDが発売されているから、それを観てから映画を観ると言っていることは理解できると思う。