「どこにでもいる平凡な高校生たちの熱い夏」アルプススタンドのはしの方 といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
どこにでもいる平凡な高校生たちの熱い夏
年が明け、2020年の映画ランキングを挙げる方が増えてきましたが、複数の映画レビュアーさんがランキングに入れていた本作。いつか観たいと思っていましたので、レンタルが開始されたこのタイミングでの鑑賞です。評価の高さから期待値はめちゃくちゃ高かったです。タイトルの通り、アルプススタンドの端っこで繰り広げられる会話劇ということは知っている状態で鑑賞しました。
結論、面白い!!
アルプススタンドの端っこで、主役にはなれない端っこの人間であるキャラクターたちが繰り広げる会話劇。大きな事件もなく雑談をするだけの映画なのに、なんでこんなに面白いのか。正直前半は退屈に感じるところも多かったけど、後半になるにつれて会話劇も野球も盛り上がる。野球の裏表の切り替え、攻守の切り替えがそのまま会話の切り替えのタイミングになっているところも非常に上手かった。それぞれの登場人物たちが相互作用し、キャラクターの心情がどんどん移り変わっているところが実に見事。これがプロの小説家や脚本家じゃなく高校演劇部顧問の先生が書いたとは驚きです。
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甲子園の全校応援に野球のルールも知らないのに参加させられた演劇部の安田(小野莉奈)と田宮(西本まりん)。応援する気もなく、アルプススタンドの端で二人で雑談していたところ、遅れて応援に参加した元野球部の藤野(平井亜門)と、試験の成績トップを吹奏楽の久住(黒木ひかり)に明け渡した宮下(中村守里)の姿もあった。それぞれが思いを胸に抱えながら試合観戦をするのであった。
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作中には大きな事件も起こらないし、上映時間もたったの74分。多分あらすじとかストーリーとかを説明しても、面白さが伝わりにくいタイプの作品ですね。ただただ会話と演出と空気感だけで、「面白い」と思わせる映画でした。めちゃくちゃ面白いのは間違いないのに「ここが面白かった」とか文章や口頭では言いにくい、レビュアー泣かせな映画です。
本作に出演しているのは「アルプススタンドのはしの方」の舞台版に出演されていた俳優さんです。テレビドラマや映画にバンバン出演しているタイプではないので正直1人も存じ上げませんでした。しかしだからこそ、「どこにでもいそうな高校生」として先入観なく観ることができたので非常に良かったです。
登場人物たちが抱えていた葛藤や悩みが、野球に絡めた自然な流れで少しずつ解決してく様子は実に素晴らしかった。
個人的なMVPは終始大声で応援する熱血教師。生徒からちょっとウザがられるタイプの教師ですね。「告白」に登場するウェルテルみたいな。最初は「こういう先生いるよな」とか「熱血過ぎて鬱陶しいタイプの先生だ」とか思っていましたけど、この教師が後半に行くにつれて「すごい人だったんだ」と、段々印象が変わっていく描写が良かった。ネタバレになるので多くは語りませんが、スヌーピーの名言として有名な「配られたカードで勝負するしかないのさ、それがどういう意味であれ」を地で行くタイプの素晴らしい先生でしたね。
どんなに説明しても面白さが伝えられる気がしません。とにかく観てほしい作品です。オススメです。