劇場公開日 2022年2月11日

「あまりの完璧な演出の完成度に圧倒されてしまいました。」ウエスト・サイド・ストーリー 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0あまりの完璧な演出の完成度に圧倒されてしまいました。

2022年9月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 上映中の157分間、あまりの完璧な演出の完成度に圧倒されてしまいました。これまで年間少ないときでも100本以上映画を見続けたわたしにとって、本作が最高の作品に感じたのです。

 核となる物語の『ロミオとジュリエット』にインスパイアされた悲恋の古めかしさは否めません。でも、傑出した楽曲と一糸乱れず振り付けのダンス、50年代後半の超リアルな背景、それを捉える躍動感あるカメラワーク、まばゆい光を駆使したスピルバーグの演出が、混然一体となって生む高揚感は圧巻でした。

 映画史上の金字塔たる古典のリメークにはリスクが伴うし、監督は相当な勇気と力量を試されます。そんな企画に挑んだのはスティーブンースピルバーグ。彼にとって初のミュージカルとなる1957年に初演されたミュージカル「ウエストーサイド物語」の再映画化したのが本作です。

 物語は50年代後半、ニューヨークのスラム街。ポ上フンド系移民の不良グループ「ジェツツ」元リーダーのトニー(アンセルーエルゴート)は、敵対するプエルトリコ系「シャークス」リーダーの妹マリア(レイチェルーゼグラー)と許されない恋に落ちます。   ロバートーワイズ、ジェロームーロビンス両監督が手がけた映画「ウエストーサイド物語」(61年)は、アカデミー賞10冠に輝いた名作。けれども、約60年がたち、ミュージカルを映画にするための演出や撮影技術は進化しました。映画を知り尽くした巨匠による“最新版”を味わえるのは幸せなことです。

 ところで本作は「ストリート」が陰の主役となっていました。歌、ダンスシーンの多くはスタジオの外で展開します。筆頭がプエルトリコの男女の群舞「アメリカ」。シャークスリーダー、ベルナルドや恋人のアニータ(アリアナ・デボーズ)らが、人波をかき分け数ブロックを疾風のごとく駆け抜けるのです。

 このシーンでもスピルバーグ作品に欠かせない、撮影監督ヤヌスーカミンスキーによる流麗なカメラワークが、躍動する肢体を臨場感たっぷりに映し出されます。その絶頂は、大人も子供も飛び出し、興奮のるつぼと化した交差点を俯瞰するショット。スクリーンから迫り来るダイナミズムに歓声を上げたくなるほどでした。

 時代設定やストーリーは、オリジナル版をほぼ忠実に踏襲しているものの、その半面、移民が直面する差別や貧困などの問題、憎しみの根深さをシビアに描き、分断と不寛容にあらがう“愛”という現代のアメリカ社会に通じるテーマを強く打ち出しました。

 プエルトリコ移民のシャークスは、差別と闘い成功を夢見ています。一方のジェッツも、白人ながら貧しい移民3世として毎日の生計を立てる刹那に追われています。
 脚本を手がけた劇作家トニー・クシュナーは、両者の違いを鮮明にしつつ、生い立ちや境遇を掘り下げ、彼らに「人生」を与えましたのです。
 トニーは、ケンカ相手に傷を負わせて服役し、刑務所を出たばかり。ベルナルドは有望なボクサー。ジェッツリーダーのリフ (マイク・ファイスト)は、カリスマ性を持つ一方でもろさものぞかせ、離れていく幼なじみトニーの心をつなぎ留めようともがくのでした。

 時を経た変化は技術的のものばかりではありません。本作のプロデュース自体が、「多様性」を目的にリブートされたことが大きな変化だと思います。そのためにシャークスには、顔をメイクで塗った白人ではなく、全てプエルトリコ系の俳優が起用されたのです。いまようやく、この物語が描く“真実”にハリウッドが追いついたといえるでしょう。
 上映時間、2時間37分。
【追伸】
オリジナルのファンにとって、伝説的な女優リター・モレノの出演もうれしいところでしょう

流山の小地蔵