「単なる青春ストーリーでなく」カセットテープ・ダイアリーズ ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
単なる青春ストーリーでなく
「爽快、感動の青春音楽ストーリー」というキャッチコピーとのギャップを感じるほど、序盤から中盤にかけて当時のパキスタン移民差別やムスリムの家族観がしっかりと描写されている。主人公ジャベドがB・スプリングスティーンの歌に惹かれていく背景の描き方が、作品に厚みを与えている。
とはいえ、作品全体の雰囲気は教訓的なものではなくあくまで明るく、内気だったジャベドが歌に力をもらって閉塞的な環境を少しずつ打破してゆく姿が観る側に元気をくれる。夢や希望を阻む現実の様々な問題や自分の内面の弱さとどう向き合うか、というテーマは、世代を超えて響く普遍性がある。
ラストまで観ると、原題の「BLINDED BY THE LIGHT」が腑に落ちる。元の曲の歌詞は物語と無関係だが、言葉のイメージの妙だ。キーアイテムは確かにカセットテープだが、登場人物の髪型や服装、流れ続ける音楽がいちいち80年代こてこてで、明るさとレトロ感に微笑んでしまう。ウォークマンにVHSテープにラジカセ、学校の先生が平野ノラばりで使う箱型携帯電話。
ジャベドのご近所友達マット役のディーン=チャールズ・チャップマンは「1917 命をかけた伝令」で主役の兵士を演じた俳優だが、シリアスだった前作と打って変わってすだれ前髪とちょいぽちゃボディで気のいい遊び人を好演。彼の次の作品も観たいと思わせてくれた。
結論としては冒頭のキャッチコピーに偽りなし。でも決してありきたりではない良作。
コメントありがとうございます。
スプリングスティーンは有名な曲を知っている程度だったのですが、この映画でジャベドの背景をしっかり見せてもらってからあの演出で聞くと、彼が受けた衝撃をまさに擬似体験したような気持ちになりました。
80年代カルチャーの描写も楽しいですね。