「地球の縮図」ANIARA アニアーラ KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
地球の縮図
アニアーラは縮小した地球。
制御不能、燃料無し、食料不足、資源不足、目先の娯楽に食い付き目先の問題に取り組んでみる人々。
身に染みる恐怖で身体は凍りつき、鑑賞後は脚が震えてしまった。
時間の経過を表すテロップで小分けにされるエピソードの一つ一つが強烈。
ぶつ切りで脈略不足の構造は逆に前後やその奥を想像させて、引き込まれる。
それぞれの出来事の一番分かりやすい部分を見せてくれるので、意味不明だと混乱することがない。
縋る先をコロコロ変える人々の行動がリアリティに溢れていた。
美しい自然を見せてくれた癒しの人工知能MIMAの死も、目的不明のカルト集団も、ちょっと時間が経てばすぐに飽きる。
普通ならこれらの問題を受けて難しく拗れそうなものを、あまり大した反応にならないのが面白い。
なっているのかもしれないけど。その面倒なシーンを削る潔さ。
一つの物事に依存するのはわりと精神力を使うからね。
なんとか維持していた船内の秩序がジワジワと崩れていく様子が恐ろしい。
荒れたショップ、汚れていく生産地。
きっと地球で起きていたことと同じなんだろう。
でも、よく持った方だと思う。
確実に病んでいく人間がいる一方で、儚い希望を作り続けるMR達の姿が印象的。
この映画の設定からして、こりゃ全員発狂で殺し合い嬲り合いの即死ルートだろ〜と思っていた自分の予想を遥かに上回る持ち堪え。
希望を捨てない気力や忍耐力というより、狂いきることすら難しい人間の複雑さ、意外なほど強めの適応力への哀しさを感じた。
筋トレに余念のない独裁的な船長へのフラストレーションがちょうど良い不快感で、イライラを楽しめるほどのエンタメ性がある。
自殺者の続出は船の維持にはわりと有難いことだったりして。
MRとイサゲルとの対比はとても悲しい。
そしてあの絶叫。勘弁してほしい。
辛くて辛くて堪らない。
このカップルの成り立ちやイチャイチャがすごく心地良かっただけに、そのショックも大きかった。
愛する人や守るべき人の存在、その活躍すら絶望の足しになるなんて。
どんどん経過する時間、虚しすぎる表彰、力のない拍手。
現実を見つめることをやめた人々からどんどん生きる力が抜けて出て行くのが手に取るように分かる。
最後に表示されたテロップに戦慄。
いやいやいや…それ本当に怖いって。
人智の及ばぬ宇宙の未来。想像すらできない範囲に広がると本能的に冷や汗が出てくる。
そしてアニアーラの先に見えた星の色合いに鳥肌が立った。
あり得ない話ではない。
宇宙船に乗らなくてもこの地球上で起こりうること、既に起こってること。
現実的に冷静に観るとツッコミ所もそりゃあるけど、この映画の凄味にやられて全然気にならなかった。
こんな時ここにいたら、私ならどうするか?と考える。シミュレーション的な感覚にもなる。
いつか死ぬのはどこにいても同じ。怖いなあ。決して抗えない時間の流れに支配されていることを実感。
スウェーデン語がとても聴き取りやすくて嬉しかった。