劇場公開日 2020年2月28日

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初恋 : 映画評論・批評

2020年2月18日更新

2020年2月28日より丸の内TOEIほかにてロードショー

題名の甘味に寄せられ、暴力の強臭にむせる。これぞ三池流・愛のかたち

令和2年の今、監督・三池崇史のいる世界とそうでない世界のどちらかを選べと神様に問われたら、自分は迷わず前者を選ぶだろう。人生においてそういう選択を迫られる機会などないが、強いて理由を言うなら「初恋」などという甘酸っぱいタイトルを冠しながら、暴力の強臭にむせる作品に出会える権利を失いたくないからだ。いや、監督はいたってマジメに恋愛を追求しているのかもしれないが、少なくともこのタイトルと中身のギャップこそが、本作の真骨頂だ。

近年は人気コミックやベストセラー小説の映画化などをソツなくこなし、キャリアの円熟味を感じさせる鬼才・三池崇史。本作はそんな監督が「極道大戦争」(15)以来、久々に挑むオリジナル企画だ。映画は余命を告げられた若いボクサー・レオ(窪田正孝)と、ヤクザの手から逃れてきた若い女性・モニカ(小西桜子)の一夜をめぐる逃亡ストーリーが展開していく。しかし二人が巨額の薬物を盗んだと睨んだヤクザ組織が、そんな彼らを執拗に追跡する。

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この突拍子もない展開は、汚職警察の大伴(大森南朋)がヤクザの加瀬(染谷将太)と結託し、組の薬物横領を計画したところから二人に降りかかり、レオとモニカのもとにはありとあらゆる刺客が迫っていく。この刺客が一癖も二癖もある異常者ばかりで、中でもひときわ凶暴な閃光を放つのが、ヤクザの情婦を演じるベッキーだろう。刺されても撃たれても立ち上がる不死身の復讐鬼ぶりで、本作のおいしいところを一人でさらっていく。しかし、それはそれで彼女が演じるキャラクターの愛の形であり、異色なタイトルを正当化させているのだ。

とはいえタイトルにまったく根拠がないワケではなく、その真意は物語の最後に明かされる。だがその事実に気付かされたときにはもう、この映画はロマンチックな位置からは遠ざかり、狂騒的で破壊チックなギャング戦争の印象をべったりと観る者の脳裏になすりつけていく。しかしそれは東映グラインドハウス路線の古い映画スタイルを喚起させ、なによりも三池が昔、Vシネマやインディ系で大暴れしていた頃の獰猛なスタイルを彷彿とさせるのだ。タイトルと中身とのギャップにとまどっていた我々は、じつはそれがある種の既定ジャンルの復活であることに気づかされる。丸く収まった映画ばかりがはびこるメジャーで、こうして狂った作品の再興は誰にでもできるものではない。三池のいる世界とそうでない世界の選択が、いかに重要なものかが理解してもらえるだろう。

尾﨑一男

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