「見えなくとも見据えた信念」見えない目撃者 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
見えなくとも見据えた信念
公開時はまた可愛いだけの若手女優を担ぎ出した他愛ない邦画サスペンスくらいにしか思ってなくて全く興味無かったのだが、以前見た『去年の冬、きみと別れ』同様偏見って良くない。
元ネタは韓国映画らしく(やっぱりね)、未見なので何処までオリジナル通りなのか本作オリジナルなのか分からない。
薄々犯人は分かり、ツッコミ所もあるが、なかなか見応えあって面白かった。
修了式で代表スピーチをするなど優秀な女性警察官のなつめ。
不良仲間とつるむ弟を連れて帰る途中、自らの過失で事故を起こしてしまう。
弟を事故死させ、自身も視力を失い、警察を去る…。
3年経っても自分を責め続けるなつめはある日、車の接触事故に遭遇。
その時、車内から助けを求める女性の声が。
元警察官としての勘が事件と直感。が、警察は信用せず。
なつめはもう一人の目撃者であるスケボー高校生の春馬に協力を乞い、独自に調査を開始する…。
タイトル通りの“見えない目撃者”。
警察も春馬も当初、信じないのもまあ無理はない。見えない“目撃”をどう信じろと…。
それは犯人も同じ。普通だったら目撃されたら危害を加えるところだが、見えないからと安心して完全スルー。
それが犯人にとって運の尽き。
座頭市さながら、視覚以外の感覚が研ぎ澄まされたなつめ。
元優秀な警察官でもあるのでその研ぎ澄まされた聴覚・嗅覚を駆使した周囲の察知力や推理力にも長けている。
加えて、強い正義感。これがなつめそのものと言える。
幾ら未だ自分自身は苦しんでいるとは言え、別の誰かが苦しんでいるのならば、放っておけない。見えなくとも、見過ごせない。
良く言えば正義感、違った言い方をすればしつこいなつめ。
警察も春馬もうんざりだが…、次第にその熱意に打たれていく。
捜査も少しずつ進展。
ある情報源により誘拐された女性が風俗で働く女子高生である事が分かる。
なつめと春馬はその界隈で、他にも行方不明になった女子高生が居る事を知る。
一見何の共通点も無いように思えたが、ある共通点が…。
さらに、そんな女子高生たちを救済する“救様”と呼ばれる謎の人物が浮上。何か事件と関係が…?
一方の警察は…
なつめに協力するベテラン刑事の木村は彼もまた独自に捜査をする内に、行方不明となった女子高生たちの惨たらしい遺体を発見。
各々、耳、鼻、唇、手首が切り落とされており…。
さらに調査を進めていくと、15年前にも似た事件が。
今回の事件はかつての事件の模倣か? それとも…?
確かに全編、元ネタが韓国映画を思わせる陰湿でハードでシリアス。
事件捜査や犯人の魔の手が迫るスリリングさに、予想以上にグイグイ見入ってしまった。
R15なだけあって凄惨なグロい描写やバイオレンス・シーンもあり。
あの“儀式”、遂に判明した思わぬ犯人、そのサイコパスさに、戦慄…。
邦画サスペンスは時々、センチメンタルな要素が蛇足になったりもするが、本作は一貫してハード・サスペンス。
とは言え、グッときたシーンもある。クライマックス、弟の遺したある物を使って犯人と対峙する凛とした強さとカッコ良さ、その際の「お姉ちゃんを守って」の台詞に弟の死を乗り越えようとする姿に胸熱くさせられた。
見えないなつめがその他の感覚による脳内状況把握イメージ映像の見せ方も秀逸。
だけど本作で最もイメージを覆させられたのは、言うまでもなく主演の吉岡里帆だろう。
正直吉岡里帆って、あんまり女優としての印象が無い。あるのは、あざといとか言われている某CMのアニマルコスプレくらい。
しかし本作では、そんなイメージを完全払拭。
笑顔を封印し、暗い過去を背負った盲目の難役を熱演している。
いやはや、見直した!
高杉真宙は当初は事件と偶然関わる何事にもやる気が無い今時のイケメン高校生だったが、なつめの姿に感化されていく。そのせいで犯人に命を狙われるが、あんな目に遭ってこのまま引き下がれねぇ!…と、彼も実は熱い。
木村刑事役の田口トモロヲがさすがの安定感で、比較的若いキャストを支えてくれている。まさしく助演の鑑!
後輩刑事役の大倉孝二も良かった。「警察が正義の味方だって事を見せてやるよ」
犯人役は言えないが、サイコパス怪演。
それから、なつめの“目”である盲導犬で忠犬のパルに、助演ワン優賞を!
犠牲も出た身の毛もよだつ猟奇殺人事件。
絶体絶命の危機に陥っても、決して諦めない。
暗い世界を漂っていても、乗り越え、新たな道を見出だす。
それは自分だけではなく、ある人物の道しるべにも。
事件は解決し…、
見えなくとも、なつめはすっかり事件を見据え、信念が見えていた。
僕も普通だったらスルーする映画なのですが、たまたま「目の見えない人は世界をどう見ているのか」という伊藤亜紗さんの本を読んだ直後だったので気になって観ました。
途中からぐいぐい引き込まれていって吉岡里帆もきれいに決めたときには、軽くガッツポーズをしてまったくらいです。
日本映画界もキャスティングありきから脱却して、こういう見ごたえのある映画をどんどん作ってくれたらのいいのに。