「代筆が繋ぐ、“僕の妹”と“ねぇね”」ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 永遠と自動手記人形 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
代筆が繋ぐ、“僕の妹”と“ねぇね”
同名小説を基にした京都アニメーション作品。
作品自体やTVシリーズの存在は何となく知っていた程度で、詳しい内容は知らず。
見る前におおまかな設定を。
昔のヨーロッパのような架空の世界。
大陸戦争が終結。
その大戦で少女兵だったヴァイオレット・エヴァーガーデンは、両腕を失い義手となる。
義手は人の肉声を文字に書き起こせる性能があり、とある郵便社で自動手記人形として代筆業の仕事を始める…。
もっとSFやファンタジー色が強い作品かと思ったら、ドラマ性の高いタッチ。
TVシリーズは、孤児で元少女兵で感情を知らないヴァイオレットが代筆を通じて人との交流や人の心に触れる群像劇スタイルらしいが、外伝となるこの劇場版では新たな物語。
良家の娘のみが通う事が許される名門女学園に通う大貴族の娘、イザベラ。
自分の未来に悲観し、生きる事に絶望する令嬢に、ヴァイオレットが教育係として雇われる事に。
嗜み、振る舞い、何もかも。期間は学園舞踏会までの3ヶ月…。
まず本作で真っ先に挙げたいのは、その画の美しさ、素晴らしさ!
京都アニメーション作品を見たらいつも言ってる気がするが、本作の画の美しさ、素晴らしさは、同社作品の中でも随一と言っていいくらい。
人の手描きでここまで描けるものなのか…!
昔のヨーロッパのような格調高い世界観がそれに一層拍車をかける。
登場キャラたちも魅力。
何と言っても、主人公のヴァイオレット。
金髪碧眼白肌の圧倒的な美貌。柔らかな声。
容姿端麗に加え、何もかもが完璧。
侍女であるが、いやいや、ヴァイオレットの方がお姫様に見えてしまう。
女学園の女生徒たちもうっとりで、付けられたあだ名は“騎士姫様”。
ちょいとネタバレになるが、中盤でヴァイオレットとイザベラが踊るワルツは、『美女と野獣』にだって負けやしない。
そんな完璧なヴァイオレットを当初は毛嫌いするイザベラ。
「君を見てると自分が惨めに思えてくる」
端から見れば恵まれた良家の娘で羨ましい地位なのに、何故イザベラはこうも心を閉ざす…?
それには、苦い過去が…。
昔、たった一人で生きていたイザベラ。
そんな時出会った幼い少女、テイラー。
自分の妹とし、貧しく辛くも、幸せな日々。
ある日イザベラが大貴族の跡取り娘と分かり、その道へ。
…いや、もっと正確に言うと、テイラーのこれからを保証すると言われ、自らその道を選んだ。言わば、自分が妹を捨てたようなもの。
それがずっとイザベラの心を苦しめている。
ヴァイオレットも悲しく暗い過去を背負っている。
先にも述べた通り、孤児で元少女兵。闘う事しか知らず、感情を知らない。
故に“愛する”事も知らず、大戦時に出会った大切な少佐から言われた「愛してる」の意味を知る為、今の代筆業を始めた。
何処か似て通じる少女二人の心の触れ合い。
次第に心を開いていくイザベラと、“友達”となっていくヴァイオレット。
令嬢と侍女を越え、育まれていく友情…。
ちょいと百合的な香りがしつつも、そんな芳しい香りに素直に心満たされる。
前半と後半で2つのエピソードが展開。
後半は、ヴァイオレットの元を一人の少女が訪ねてくる。
お察しの通り、イザベラの妹、テイラー。
イザベラがヴァイオレットと別れる際、自動手記人形のヴァイオレットに代筆して貰った手紙。その中に、困った事があったら、ヴァイオレットを訪ねて、と。
その手紙を頼りに訪ねてきたテイラー。
郵便社の計らいで郵便配達見習いとして働き始める。
活発な性格だが、昔は言葉もまともに話せず。
働きながらヴァイオレットに習い、姉へ代筆の手紙を…。
テイラーの希望とも言えるラストにまたまた感動させられる。
美しい映像、魅力的なキャラ、繊細な物語…。
またまた京都アニメーションから心に染み入る素敵な作品が。
TVシリーズも見てみたいと思ったし、4月24日公開予定の完全新作劇場版も是非見たい。
当初は1月公開の筈だったが、あの憎き事件のせいで延期となり、そして今コロナでまた延期になりそう…。
不運を感じるが、それらを乗り越え、晴れて公開された暁には、きっと…。
終息の目処が付かないコロナ対策の一つで、人との一定の距離を保つ事を意識しなければならない現状況。
でも、心と心は別。
代筆手紙が繋ぐ、人の優しさ、幸せ、愛。